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ストコフスキーのトッカータとフーガ [クラシックCD]

ストコフスキーのバッハ・トランスクリプションを前回のブログに書いたついでに、バッハの「トッカータとフーガ ニ短調」のストコフスキー編曲によるオーケストラバージョンを、本人と他の指揮者も含めて手持ちのCDの演奏のいくつかで聴きくらべてみました。

■ストコフスキー~フィラデルフィアのSP録音

st2.jpgまず最も古いストコフスキー自身がフィラデルフィア管弦楽団を指揮した演奏で、1927年のSP録音からの復刻です。ディズニーのアニメ『ファンタジア』で、フィラデルフィア管を指揮したストコフスキーの演奏で初めてこの曲を知った者としては、極めて懐かしい演奏です。ファンタジアが1940年の公開ですから、それよりもさらに13年も前の、気の遠くなるほど昔の録音です。ストコフスキーがフィラデルフィアと残したこの曲の正規のスタジオ録音は、残念ながらこの古い古~いSP録音しか残されませんでした。  

ところが、このCD復刻は驚異的に良い音質なのが、せめてもの救いです。SP録音なので、もちろんテープ以前の最初期の電気式ダイレクトカット録音のはずですが、それでここまでの音が録れていたというのは奇跡的です。少なくともカリカリして乾いた音にガッカリさせられる出来の悪いモノーラルやステレオ録音より、この大昔のSP録音の方がはるかにオーケストラがまともなバランスで収録されています。40年のストコフスキー~フィラデルフィアの『ファンタジア』のサントラ盤もCD化されていますが、フィルムのサウンドトラックから録られたその音質は映像なしで聴くと、現在の水準からはかなり貧しいものです。音だけであればこちらのSP録音の方がファンタジアの格好のスーヴェニールとして楽しめます。SP盤のジャケットを模したこのシリーズ共通のジャケットデザインも秀逸ですが、欲を言えば紙ジャケ仕様にして欲しかったところです。

このSP録音に聴くストコフスキーのアゴーギクは、ファンタジア時代とほとんど変わっていなかったことがわかりますが、演奏時間はファンタジアよりさらに1分ほど速くなっています(ファンタジアでの演奏時間はサントラ盤による)。この8分32秒という演奏時間は、この曲をちょうどSP盤1枚の両面に収めるための演奏時間だったのかもしれません。

■ストコフスキー~彼の交響楽団による1回目のステレオ録音

st1.jpg次の一枚はステレオ時代に入ってからの最初のストコフスキー自身の演奏です。彼の交響楽団という実体不明のオケを指揮しています。ストコフスキーはモノーラルLP時代に、ストコフスキーの録音専用に組織された彼の交響楽団という同名のオーケストラを使っていくつかの録音を残しています。このステレオ録音用のオーケストラは、またそれとは異なる、レーベルの関係で実名が伏せられた覆面オケと思われます。

この米キャピトル盤は現在はEMIから出ていますが、1958年の最初期のステレオ録音としては結構優秀で、モノーラル録音がまだ行われていた当時のEMI録音よりはオーケストラの全体像がバランス良く収録されています。演奏時間は9分33秒とファンタジアとほとんど変わっていないので、ファンタジアの演奏がより良質なステレオ録音で楽しめるといった一枚になっています。

■ストコフスキー~チェコフィルのライヴ録音

st3.jpgステレオ時代の2回目の録音で、前回のブログで取り上げたチェコフィルとの1972年のライヴ録音盤です。演奏時間は10分17秒と、さらに1分近く遅くなりました。この盤はデッカのフェイズ4録音も含めて華麗濃厚なストコ節の頂点が聴ける演奏になっています。

キャピトル盤と次のロンドン響盤というステレオ時代の二つの録音はストコフスキーとしてはかなりまともなバランスの録音なので、このデッカによるフェイズ4録音盤は、音の上では最もストコフスキーらしさが感じられる録音かもしれません。

■ストコフスキー~ロンドン響の最後のステレオ録音

st4.jpg1974年、ストコフスキー最後のトッカータとフーガはロンドン響とのRCA録音です。デッカのフェイズ4の人工的な録音から180度方向転換して、極めて穏当なバランスのコンサートホールプレゼンスによるドルビー・サラウンド方式で収録されています。ドルビー・サラウンドというのも当時のステレオ録音の謳い文句の一つで、今となってはアナクロで懐かしい感じがします。今回初めて録音年月を確かめて気づいたのですが、信じがたいことですが、チェコフィルとのデッカ盤のわずか2年後の録音です。

演奏時間はデッカ盤よりわずかに速くなっていますが、大きな差はない範囲です。ただ、コンサートホールプレゼンスで聴くストコフスキーは、何故かおとなしく聴こえてしまいます。それでも私にとってはストコフスキーのこの曲の演奏が、デッカ盤とはまた別のアナログの優秀録音で残されていたということは、幸せなことです。

■サヴァリッシュ~フィラデルフィア

sw.jpg次に他の指揮者によるこの曲のストコフスキーバージョンの演奏です。まず、サヴァリッシュで、何とストコフスキーゆかりのフィラデルフィア管を指揮しています。サヴァリッシュはこのオケの常任だったので、ストコフスキーへのオマージュとしてこの曲を録音したのでしょう。

サヴァリッシュの指揮は予想通りケレンのない真面目な演奏ですが、フィラデルフィアが少しドイツのオケみたいに聴こえるのが面白いところです。96年のデジタル録音ですが、デジタル時代に入っても相変わらずハイ上がりでカリカリした録音がまま見られるEMIとしては珍しく、この録音はオーケストラの音がまともにバランス良く収録されています。

■サロネン~ロスフィル

sl.jpgさらに新しい99年のサロネン~ロスフィルのデジタル録音です。サヴァリッシュはケレンがないとはいえ、未だ慣習的なアゴーギクが残されていますが、サロネンではそれがきれいさっぱり取り払われているので、ストコフスキーの編曲の面白さを逆に鮮明に聴くことができます。テンポも晩年のストコフスキーの遅い方のテンポを採用しているので、それが一層明確にわかります。

特にサラサラと流れて行くフーガはサロネンらしいクールな美しさを感じさせてくれると同時に、雲が流れて行く『ファンタジア』のトッカータとフーガの幻想的な映像も思い出させてくれます。

■バーメルト~BBCフィル

bm.jpg最後はバーメルトがBBCフィルを指揮したシャンドス盤です。バーメルトはサロネンと同じく作曲家でもあるということですが、ストコフスキーのアシスタントを務めていたという経歴を持ち、サロネンとは対照的にストコフスキーのアクの強いアゴーギクを意識的に受け継ぎ、それを積極的に表現しようとしているのがわかります。作曲家でもあるバーメルトにとっては、ストコフスキーのアザとい仕掛けが面白くてしょうがないのかもしれません。

バーメルトによるストコフスキーのバッハ編曲集はこのトッカータとフーガが収められた一枚を含めて2枚あるほか、さらにストコフスキーの他の作曲家のトランスクリプション集がシャンドスから数枚出ています。

長い残響をともなうシャンドス盤の録音は好みが分かれるところかもしれませんが、私の部屋のデッドなアコースティックとタンノイの硬質な音のスピーカーではそれがたいへんに好ましい結果に作用してくれます。バーメルトがこの音でストコフスキーのトランスクリプションの数々を現代に甦らせたのを聴くという体験は、ある意味でファンタスティックな体験でもあり、つくづく現代というのは幸せな時代であると思わせてくれます。















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たこやきおやじ

ストコフスキーのことお詳しいですね。大変参考になりました。
by たこやきおやじ (2008-11-28 10:05) 

mickey

>たこやきおやじさん
ご訪問ありがとうございます。
サロネン盤もそうですが、近年はストコフスキーだけではなく、様々な作曲家、指揮者が編曲したバッハのオーケストラ編曲集が出るようになりました。
エルガーの幻想曲とフーガ ハ短調など、ストコフスキーもあっと驚く濃厚な編曲で、ストコフスキーのバッハ編曲との類似性に驚かされます(ストコフスキーの編曲とほぼ同時期?)。
by mickey (2008-11-28 21:48) 

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