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フィストゥラーリの白鳥の湖のSACD [クラシックCD]

フィストゥラーリによる白鳥の湖は何種類かの録音が残されていますが、なかでもコンセルトヘボウを指揮したハイライト盤は敬愛する宇野功芳氏が絶賛しておられるように、我々がイメージする最も白鳥の湖らしいロマンチックな白鳥の湖に仕上がっています。

白鳥3.jpgこのアナログ時代の名盤は、随分とLPで聴き親しんだものです。左のジャケ写は国内盤のCDのものですが、現在は手元にないLPのジャケットはそのロゴ文字も含めて、多分この写真と同じデザインではなかったかと思います。

ステレオ初期の1961年(何と半世紀50年も前!!)のアナログ録音ながら、全盛期のコンセルトヘボウのむせかえるような美音が英デッカの名録音によって見事に捉えられているのも特筆されます。コンセルトヘボウはハイティンク、シャイーと常任指揮者が新しくなるにつれて、メンゲルベルク時代の味の濃さが徐々に失われて、薄味のオケになっていったのは残念です。この録音は、コンセルトヘボウの常任が前任のベイヌムからハイティンクに代わったばかりの時期になるでしょうか。未だメンゲルベルク伝統のコンセルトヘボウ・サウンドが残されていた時代の録音です。

全体にフィストゥラーリが意図したと思われる濃厚なロマンティシズムが重視された、ハイライト盤としてはユニークな選曲が特徴です。ストーリーとは直接関係のないディヴェルティスマンは何と「ハンガリーの踊り」1曲のみで、その代わりに「情景」は5曲も採用されています。どの曲からもフィストゥラーリならではの個性的な職人技に耳を聳たせられますが、一例として第4幕の「四羽の小さな白鳥たちの踊り」の終結の和音など、原譜のフォルテを無視してピアニッシモにディミヌエンドさせて終わるところなど、その効果はたまらなくお洒落です。その一方では「フィナーレの情景」の終結ではティンパニの連打を物々しく強奏させて胸の空く思いです。

白鳥2.jpgこの録音は国内盤でのCD化も何回かリマスターが行われていますが、何故かCD化された再生音はいずれも薄味になってしまい、LPに聴かれる、あのねっとりとした厚みのあるデッカサウンドが聴けずに残念な思いが残りました。これはCDの方がマスターテープには近い音で、LPの方が厚みのある音質に加工されていたのかもしれない、と諦めていました。

現在、国内盤のCDは廃盤のようですが、オーストラリアからエロクアンス・シリーズで廉価盤仕様で出ています。これは、結構いいリマスターです。初めてこのCDを聴いた人は、この50年も前の録音が、最新のデジタルステレオ録音をはるかに上回るとびきりのハイファイ再生音を聴かせることに驚かれるのではないでしょうか。それでもLPとは大分異なる音質ですが、初めにこのエロクアンス盤で聴いていたら、CD化への不満もあまり感じないで済んでいたかもしれません。

白鳥1.jpgところが上には上があるもので、エソテリック製のSACDは、これまたあっと驚くような凄い音がしています。オーディオメーカーのティアックの高級ブランド「エソテリック」からの発売で、以前にこのシリーズのSACDでアンセルメのファリャ「三角帽子」を聴いて、その音質の良さに驚かされました。フィストゥラーリの白鳥も是非このシリーズでのSACD化をと切望していたのですが、予想外に早くその願いが叶いました。一般には格別高い評価が与えられていたわけではない、この隠れた名盤がSACD化されたのは望外の喜びです。

周波数帯域の上と下がカットされているCDに対して、SACDはより周波数の帯域を広げているのでアナログに近い再生音が聴けると言われています。ところが、個人的には確かにSACDはCDよりも優れた再生音を聴かせてくれることを認めた上で、だからといってアナログに近づくとは思えませんでした。ところが、このSACDを聴いて、その偏見も壊されそうになりました。

エロクアンス盤はLPとは全く別物の新しいハイファイ音に仕上がっているのですが、このエソテリックのSACDでは、アナログLPで聴いたねっとりと分厚いデッカサウンドが、そのまま現代の技術でさらに良好な再生音として甦っています。やはり、オリジナルのマスターテープには本来分厚い音が収録されていたことが改めて納得できました。通常のCDのように音が薄くならないのは、SACD化というよりは、このCDの優秀なリマスター技術の賜物と言えそうです。それは、ハイブリッドのCD層で聴いても確認できることです。

この50年前の録音を聴いていると、アナログからデジタルへと方式の違いは変化していても、ステレオ録音の技術的水準は既に50年前に頂点に達してしまい、もしかしたら、その後それほど大きな進歩は見られないのではないか、と思ってしまいます。アナログ録音のマスターテープには驚くべき凄い音が記録されていたようです。このリマスターのようにそれを丁寧にデジタル化すれば、デジタル録音を遙かに凌ぐ高音質が得られるのかもしれません。

エソテリック製のSACDはCDショップではなく、オーディオショップのみでの販売になるようですが、SACDが再生できない方でもハイブリッド仕様のCDで聴けるので、フィストゥラーリ~コンセルトヘボウの白鳥を愛する方には、是非聴いていただきたいと思います。




『白鳥の湖』ハイライト フィストゥラーリ&コンセルトヘボウ管弦楽団
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