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プレトニョフの白鳥の湖 [クラシックCD]

プレトニョフのチャイコフスキー「白鳥の湖」を聴きました。この曲は先のブログでフィストゥラーリのSACDによるハイライト盤を取りあげたばかりですが、続いてプレトニョフが手兵のロシア・ナショナル管弦楽団を指揮した全曲盤の新譜を聴くことができました。

ピアノと指揮の双方において活躍するプレトニョフは、他の演奏家にはないユニークな解釈を聴かせる演奏が特徴ですが、そのユニークな解釈には常に関心させられるわけではありません。モーツァルトのピアノ・ソナタなど、他のピアニストとは異なった読替にドキッとさせられますが、だからといって決してモーツァルトの曲が面白くなっているわけではありません。

そこで、あまり期待しないで聴いたこの白鳥の湖ですが、結果は目から鱗の出来で、プレトニョフからの予想外にうれしいプレゼントになりました。

プレトニョフ.jpgプレトニョフの白鳥の湖の全曲盤は、耳ダコの曲ながら一箇所たりともルーティーンワークに流されたところがなく、初めて聴く曲のように新鮮です。さすがにオケが相手なので、ピアノの時ほどではないにしても、あちこちにプレトニョフならではのユニークな読替が見られますが、その読替はここではピアノの時以上に奏功しているように聴こえます。あくまで涼しい顔をしながら、他の誰からも聴けなかった白鳥の湖の新たな魅力を聴かせてしまうところに、プレトニョフならではの真骨頂を伺うことができます。

例えばフィナーレの終幕の情景の最後の打楽器群の強調などに、この演奏のユニークさを端的に伺うことができます。このフィナーレの最後に登場するタムタムは、通常はオーケストラのテュッティに埋もれてしまって聴こえません。これは生で聴いた時も同じでした。ところがこのプレトニョフ盤では、タムタムの音を明瞭に聴くことができます(LP、CDを通して初めて!?)。これは録音操作で聴こえるようにしているのかもしれませんが、それを敢えて試みたのはやはりプレトニョフの意図と思われます。

この白鳥の湖はチャイコフスキーの原典版が使われています。現在では舞台の上演に際しては、台本の手直しも含めより効果的に改編された蘇演版が用いられるのが普通ですが、昔はレコーディングも蘇演版が使われていました。ところが近年のレコーディングでは、他人の手による改編を良しとしない原典尊重主義という悪しき(?)慣習が定着して、ほとんどが退屈な原典版を使うようになってしまいました。プレトニョフもその例外ではありませんが、プレトニョフだからこそ、より劇的に改編された蘇演版で聴いてみたかったところです。ただ、別の見方をすれば、オリジナルの原典版だからこそ、プレトニョフならではの手練手管がより明瞭に浮き彫りになっているとも言えるかもしれません。

ドラマ性が少なく、ストーリーとは関係のない踊りのための純粋舞踊曲の多い原典版だからこそ、それらの純粋舞曲において、ピアニスト出身の指揮者ならではの緩急自在のドライブ感覚とバランス感覚が冴えわたっています。その一方で、原典版の中にもあるストーリーを進めるための情景は、煽り立てるがごとくに他のどの指揮者よりもドラマチックに扱われています。

このCDはフィンランドのオンディーヌ製です。このレーベルらしく全く強調感のないワンポイント収録を思わせるコンサートホールプレゼンスの生かされた好録音です。我が家のタンノイのスピーカーは音が硬いので、メジャーレーベルのCD録音は概して人工的に強調されたキツい音に聴こえてしまいます。それだけに、こういうマイナーレーベルならではの自然な再生音を聴くとホッとします。プレトニョフの指揮が個性的なだけに、逆に自然な録音がその手練手管をありのままに再生してくれます。これだけ自然な再生音だと、CDというよりまるでSACDを聴いているようです。ブラインドで聴かされたら躊躇なくSACDと思ってしまうかもしれません。

なおこの音質評は我が家のタンノイというやくざナスピーカーでの評価になりますので、一般のスピーカーで聴くと、そのナチュラル過ぎる音質が物足りなく感じられるかもしれませんので、念のため。

敢えて不満を一つだけ付け加えさせていただければ、ジャケットデザインのアートディレクションが少々安っぽいことです(これも、このレーベルのもう一つの特徴!?)。中身の演奏と録音の良さに免じて、これには目をつぶることにしましょう。

プレトニョフのピアノは前記モーツァルトのピアノ・ソナタもあまり関心できない仕上がりでしたが、ロストロポーヴィッチの棒で競演しているラフマニノフの第3ピアノ・コンチェルトも、単に指が良く回るという以上の出来とは思えませんでした。指揮の方では同じチャイコフスキーのバレエ音楽「眠りの森の美女」全曲がありますが、これは曲自体が指揮者の個性が出にくいせいか、今回の「白鳥の湖」ほど個性的なものではありませんでした。けれどもこの白鳥ではこれだけ個性的な演奏を聴かせてくれたのですから、今後のプレトニョフには注目しておくことにしましょう。





『白鳥の湖』全曲 プレトニョフ&ロシア・ナショナル管弦楽団(2CD)
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