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ラヴェルのピアノ協奏曲 その2  [クラシックCD]

前回ブーレーズが伴奏した二人のピアニスト、エマールとツィマーマンによるラヴェルのピアノ協奏曲(左手ではなく両手用の方)について書いてみましたが、今回手持ちの盤から他のピアニストによるこの曲の演奏を再び取り上げてみました。

前回のブログでは、この曲の演奏としてエマールとミケランジェリが楷書なら、ツィマーマンは行書であると書きましたが、巷間ではこの曲の決定盤としての定評の高いアルゲリッチもツィマーマンに準じる行書のような演奏といえます。

ラヴェル:ピアノ協奏曲

ラヴェル:ピアノ協奏曲

  • アーティスト: アルゲリッチ(マルタ),ラヴェル,アバド(クラウディオ),ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2007/02/28
  • メディア: CD


アルゲリッチの演奏はツィマーマンと同じ程度に行書を思わせる自由な演奏ながら、さらに勢いがあり、そのぐいぐいと突き進んでいく演奏は、今あらためて聴いても清新な魅力が感じられます。この人の演奏はどんなに過激になっても、行書どまりで、草書までには崩れることはありません。その健康さがこの人の持ち味なのでしょう。ただラヴェルらしさとなると、もう少しソフィスティケートされた味わい(ある種の毒気)が欲しいところです。アバドの伴奏は肌理が細かく、この人の指揮としては及第点の出来ではないでしょうか。

なお、アルゲリッチとアバドのコンビは後年、この曲を再録音しています。この後年の録音では、アルゲリッチの表現はさらに自由になり、草書体に近づいていますが、それでもこの人ならではの衒いのないストレートな持ち味は健在です。熱狂的なアルゲリッチ信者とはいえない私にとっては若き日のアルゲリッチのよりストレートな演奏の方を取りたいところですが、アルゲリッチファンの方々はどちらの演奏に軍配を挙げるのでしょうか。

ツィマーマンとアルゲリッチが行書なら、さらに自由に草書ともいえるほどに崩された演奏を3種ほど所有しています。偶然ながら、その3種のどれもが三者三様に個性的な名演です。

まず、これも一昔前までこの曲の決定盤として名高かったサンソン・フランソワのピアノ。クリュイタンス~パリ音楽院管という最良の伴奏がついていますが、1959年のステレオ録音ながら、今となってはカサカサと乾いた音質のオケの音に録音の古さを感じさせてしまうのが残念です。特にシャリシャリとした高弦がひどい!!
この高弦の音質はSP以下のレベルです。ステレオ化に遅れをとったこの時代のEMIの録音は当時の水準としても決していいとはいえないのですが、同じEMIによるラヴェルの協奏曲でも、さらに古い57年のミケランジェリのステレオ録音は、当時のEMIには珍しくもう少し良好な音質で収録されています。こちらのフランソワの録音レベルのステレオ録音なら、モノラルにして聴いた方が聴きやすいかもしれません。こういう昔のアナログステレオ録音はLPで聴くと、それなりに味わいのある音で聴けるのですが、CDでは残念ながら古さのデメリットの方だけが強調されてしまいます(LPから起こしたCDの場合でもCDである限り同じ)。けれども幸いなことにフランソワのピアノの方はオケに比べれば録音の古さがさほど気にならず、むしろ十分に堪能できるレベルです。

フランソワの我儘で、やりたい放題の弾き方は今聴いても新鮮です。一楽章のコーダにおけるフラメンコのような箇所など、鯔背な若い衆がべらんめえ口調で啖呵を切っているような趣があり、胸の空く思いです。このフランソワの小粋に自己流に崩した弾き方に耳が慣れてしまうと、こういう弾き方のほうがふつうで、他のピアニストによるこの曲の演奏はバカみたいに楽譜通りに何もやっていないように聴こえてしまいます。心してこの演奏に慣れすぎないようにしなければ!?


ラヴェル:ピアノ協奏曲

ラヴェル:ピアノ協奏曲

  • アーティスト: フランソワ(サンソン),ラヴェル,クリュイタンス(アンドレ),パリ音楽院管弦楽団
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2004/12/08
  • メディア: CD


次にグリモーのピアノ。まだ若いグリモーのラヴェルの協奏曲はすでにこの録音が再録のようです。この盤は録音が新しい(1990年代後半)ので、ジンマンの配慮の行き届いた指揮ともどもラヴェルの色彩感が心行くまで堪能できます。グリモーはアルゲリッチの再録に比べてもさらに自由気ままに弾いていて、まさに草書体にまで崩された演奏を聴かせています。楽譜にはない強弱、緩急を自由につけたその崩し方がとにかくお洒落でセンス満点。何でもないアルペジョやスケールでさえ、グリモーの手にかかるとその一つ一つがため息が出るようにお洒落で詩的なのです。それはグリモーならではの才能といえるでしょう。ただ一楽章のコーダに出てくるフラメンコのような箇所が、グリモーの弾き方だと軽すぎて左手の低音の決めが甘くなってしまったのが、個人的には少し残念です。それも詩的な弾き方ゆえの成り行きと目をつぶることにしましょう。


Piano Concertos

Piano Concertos

  • アーティスト: George Gershwin,Maurice Ravel,David Zinman,Baltimore Symphony Orchestra,Hélène Grimaud
  • 出版社/メーカー: Erato
  • 発売日: 1997/10/24
  • メディア: CD


3つめはあまり知られていませんが、何とバーンスタインが弾き振りでピアノも弾いている演奏。バーンスタインのピアノは何種か録音が出ていますが、ここでは何とラヴェル!!  これが滅法うまく、指揮者のピアノなどという懸念ははるかに超えた出来です。ニューヨークフィル常任時代の演奏ですが(ここでのオケの名称はなぜか別団体のコロンビア響)、この素敵な演奏がなぜ一般には知られなかったのかと思えるような快演です。

フランソワも真っ青というぐらい、バーンスタインのピアノもやりたい放題に暴れまくっています。その暴れ方が小粋なフランソワとは違って、バーンスタインは、ラヴェルが意図的に採り入れているこの曲のジャズのイディオムを徹底的に拾い出そうとしています。それが面白くないといわれればそれまでですが、個人的には敢えてそうしてくれたお陰で、この曲を非常に面白く新鮮に聴くことができます。第二楽章冒頭のソロのモノローグなど、うらぶれた酒場のブルースのような味わいで弾かれています。

第3楽章の展開部で、第1テーマ第2句の8分音符のリズム音型のモチーフが様々な楽器で延々と繰り返される箇所があります。その繰り返しはハープの左手の低音にチェロのピチカートが重ねられて始まります。ここは楽譜にはハープのパートにmfの指示があるのに、通常の録音ではハープもチェロも背後に回ってただモゴモゴいっているだけで何をやっているのか、ほとんど聴きとれません。これは未だ録音技術が追い付いていないという問題なのではなく、ラヴェルが意図したようには実際は聴こえないということです。客席の生演奏で聴いても、ここは録音以上に聴きとれません。ところがこの録音は指揮者の位置で聴いているかのような一昔前のオンマイク録音ということもあり、ハープとチェロの音型が手に取るようにはっきりと聴こえます。

この録音を聴いて初めて、ここはこの後管楽器で繰り返されるのと同じ音型だったということがわかりました。ここが聴こえるのは、あながち録音のせいばかりではなく、バーンスタインが意図的に聴こえるようにしているとも考えられます。バーンスタインがやると、ここはジャズのベーシストがスイングしているように聴こえます。ニューヨーク時代のバーンスタインは説明的過ぎると評されていたことがありますが(バーンスタイン自身の解説によるヤングピープルズコンサートで育てられた一員としては、個人的にはそこに好感が持てるのですが)、こんな細部のマクロなクローズアップにも当時のバーンスタインらしさがうかがえます。

この録音は1958年なので、フランソワ盤よりさらに1年早い最初期のステレオ録音になりますが、こういう音録りだと、録音の古さはほとんど気になりません。

これら三者三様のやりたい放題にやって、しかも魅力的な演奏を聴いていると、この曲をあのハイドシェックのピアノで是非とも聴いてみたいという気持ちが募ります。私のような追随者さえ見放してしまっている現在のハイドシェックの恣意的な弾き崩しでこの曲が弾かれたら、いったいどんな演奏になるのでしょうか!?


ラヴェル:ピアノ協奏曲 他

ラヴェル:ピアノ協奏曲 他

  • アーティスト: バーンスタイン(レナード),バーンスタイン(レナード),ラヴェル,ニューヨーク・フィルハーモニック,フランチェスカッティ(ジノ),コロンビア交響楽団,フランス国立管弦楽団
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2010/04/07
  • メディア: CD



ラヴェル:ピアノ協奏曲/夜のガスパール、他 マルタ・アルゲリッチ
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www.hmv.co.jp/product/detail/3872788
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Piano Concerto: Grimaud(P)Zinman / Baltimore.so
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Piano Concerto, Etc: Bernstein(P) / Columbia So French National O Nyp M.horne Francescatti
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