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古楽器のプーランク [クラシックCD]

先のブログでプーランクの田園のコンセールを取り上げたばかりですが、何とこの曲の古楽器演奏の新譜が出ました。

インマゼールが主宰して指揮を執るピリオドオーケストラのアニマ・エテルナの演奏です。このピリオドオーケストラはバロック、古典派はいうに及ばず、ロマン派から近代のラヴェルまでレパートリーに入れているので、20世紀初頭のプーランクも決して意外な選曲ではありません。今回のプーランクは田園のコンセールの他に2台ピアノの協奏曲、(ジェルヴェーズによる)フランス組曲が収められています。

zigzag.jpgラヴェルもそうですが、このオーケストラは近代物でもできる限り当時の19世紀末から20世紀初頭の楽器を使っているようです。果たしてこの時期の楽器が古楽器といえるかどうか疑問ですが、確かに管楽器など古いメカニックによる独特の音色が感じられます。弦楽器は当然、ノンヴィヴラート基本ですが、さすがに近代物では完全にヴィヴラートを排しているわけでもないようです。ただ20世紀初頭のオケはギンギンにヴィヴラートをつけていたはずで、ヴィヴラートの抑制はこのピリオドオケの流儀といってよいでしょう。

20世紀初頭の現代曲を古楽器で演奏するという試みは何やらコロンブスの卵的発想を思わせますが、結果的には、パリの骨董店でみつけたフランス人形を思わせるような、この時代のコンテンポラリーであるアールデコ調の雰囲気が立ち昇る素敵な一枚になりました。

さて、チェンバロソロとオーケストラ用に書かれたお目当ての田園のコンセールです。この曲はランドフスカに捧げられた曲なので、ランドフスカモデルというピアノのメカニックを取り入れて大音量が出せるようにしたプレイエル製のチェンバロによって初演されています。今ではほとんど忘れられてしまったランドフスカモデルのチェンバロですが、オリジナルに忠実な古楽器演奏では、その実際の音が聴けるのかと期待していました。ところが何とインマゼール自身の解説にもある通り、ランドフスカモデルも試してみた結果、この曲にはヒストリカルモデルのチェンバロの方がふさわしいという結論に達したということで、ヒストリカルのグジョンのレプリカモデルが用いられています。

ランドフスカモデルのチェンバロを使ったランドフスカ自身による演奏はバッハや、この曲も初演に立ち会ったモントゥーの指揮によるヒストリカル録音が残されています。それだけに最新録音のオーケストラのアコースティックの中でこの楽器を聴いてみたかったところです。結果的に肩透かしを食らってしまった格好ですが、ではこの演奏はつまらないのかというと、決してそんなことはありません。この曲にふさわしい田園的な鄙びた味わいを出している古楽器使用のオーケストラの管楽器群の響きの中に、グジョンの古雅なチェンバロの音が見事にマッチしていて、これはこれでいい演奏です。なおチェンバロソロはインマゼールではなく、古楽器のチェンバロ奏者のカテジナ・フロボコヴァーが担当しています。

ただし、ブラスと打楽器を含む通常の2管編成のオケにレプリカチェンバロの音量が対抗できるはずはなく、ここで聴かれるのはあくまで、他のこの曲の録音同様、録音上だけのバランスと考えられます。ここはお上品なグジョンのレプリカモデルではなく、是非ともランドフスカモデルというモンスターチェンバロの実際の音量バランスで聴いてみたかったところです(それでも、オケの音量には対抗できなかったはずですが)。ランドフスカモデルであれば、演奏の上でも、この曲のスラップスティックなハチャメチャな側面がさらに強調されたのではと思われます。

2台ピアノ協奏曲のピアノは予想通り、19世紀末から20世紀初頭に製作されたエラールピアノが使われています。第一ピアノがクレール・シュヴァリエで、インマゼールは指揮をしながら第二ピアノを弾いています。

この曲には作曲者自身とフェヴリエのピアノにプレートル指揮のパリ音楽院管の伴奏という歴史的なステレオ録音が残されています。プロの演奏家ではない作曲者の自演盤というのはどれもつまらない物が多いのですが、これは例外。作曲者自身とフェヴリエによる2台のピアノの軽妙洒脱なかけあい (作曲者が第1ピアノでしょうか?) の見事さは呆れるほどで、これを超えるこの曲の演奏は今後とも多分現れないのではとすら思われます。

さてエラールピアノによるこの曲の演奏ですが、ピアノも含めて全体のトーンカラーに漂う古楽器ならではの独特な古びた味わいが魅力的です。ただ、ここでのエラールピアノの音はは予想していたほどには古びたものではありません。当時のエラールピアノで演奏したドビュッシー(インマゼールによる演奏のCDもあります)など、モダンピアノにはない独特の味わいが出てくるのですが、プーランクの場合は書法自体が楽器の音色の違いが出にくいというせいもあるのかもしれません。

ジェルヴェーズによる「フランス組曲」は、古いメカニックの管楽器とブラスにインマゼール自身によるチェンバロソロが融け合いながら熟成された雰囲気を醸し出していて、これもいい演奏になっています。

久しぶりに予想もしていなかった古楽器によるプーランクという面白い一枚を聴けたのは楽しい体験になりました。次はこの古楽器オーケストラで疑似バロック音楽のレスピーギの「古風な舞曲とアリア」組曲をやってもらうなどというのは、どうでしょうか。


2台のピアノのための協奏曲、田園のコンセール、フランス組曲 インマゼール&アニマ・エテルナ、シュヴァリエ(日本語解説付)
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追記1:

その後、ネットで調べてみた結果、エラールピアノがモダンピアノと異なる最大の特徴は平行弦の構造にあることがわかりました。スタインウェイ以降のモダンピアノは皆、交差弦になっているようですが、交差弦にすることで、弦に対して、より強力な張力と剛性を付加することが可能になったようです。この構造により特に低弦の力強さが増しているようです。したがって未だ交差弦が採用されていないエラールピアノは、それだけ純粋で澄んだ音になるということです。現在の私たちがあたりまえと思っているスタインウェイに代表されるコンサートグランドの押し出しの強い音に比べると、エラールピアノは随分と控えめでおしとやかな音といえるかもしれません。

このエラールピアノによるドビュシーの演奏では、ドビュッシー独特の非機能和声をそれだけ純粋な響きで聴かせてくれるのかもしれません。でも、それがプーランクでは? まあ、モダンピアノに比べれば、より軽く淡泊な響きがプーランクの軽妙さにはマッチするのかもしれません。

追記2:

このプーランクがあまりによい出来だったので、このコンビによるラヴェルの管弦楽曲集を購入してみました。ところが、残念ながら個人的にはあまり感心できませんでした。プーランク以上にさんざんモダンオケで聴き親しんだラヴェルのオーケストレーションは、やはりノンヴィヴラートのオリジナルオケの響きではあまりにも非力に聴こえてしまいます。特に我が家の再生装置では低音弦の威力が全く失われてしまいます。これはこのコンビによるチャイコフスキーの交響曲第4番とくるみ割り人形を聴いた際も同じ印象でした。

実はチャイコフスキーにあまり感心できなかったので、ラヴェルも敬遠していたのでしたが、その予想は残念ながら的中してしまいました。やはりプーランクはたまたまうまくいったのかもしれません。ただし、インマゼールというアーチストは、その鍵盤演奏と指揮ともども、曲によっては極めて説得力の強い、他者にはないユニークな解釈を聴かせる人であることは認めておきたいと思います。
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