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クレンペラー マーラー交響曲第4番のSACD [クラシックCD]

クレンペラーのマーラー交響曲第4番のSACDを聴きました。EMIは往年の名演のSACD化が、今やっと始まったところですが、先に出ていたハイブリッド仕様によるSACD名盤シリーズにはこの録音は入っておらず、今ようやくシングルレイヤー仕様のSACDで発売されました。3,980円と高価ですが、その昔の輸入盤のLPの価格はこれぐらいしていたこともあったかもしれません。ただし、限定盤という触れ込みで高価な割には、パッケージはレギュラー盤と同じ標準仕様のプラケースなので、もう少し価格相応のゴージャスさが欲しいところです。

ジャケットはオリジナルを尊重しているらしく、昔、アメリカエンジェル盤のLPで親しんだ絵柄が使われています。国内盤はEMIが東芝になってからはLP~CD時代を通してこのジャケットは使われていなかったはずで、こうして蘇ったのを見ると懐かしさがヒトシオです。


マーラー:交響曲第4番

マーラー:交響曲第4番

  • アーティスト: クレンペラー(オットー),マーラー,フィルハーモニア管弦楽団
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2012/11/28
  • メディア: CD



波が打ち寄せる曇り空の岸辺に佇む一人の人物。この岸辺は海でこの世と隔てられた彼岸なのでしょうか。LPを聴く度に、このジャケットの絵柄のイメージが無意識に刻み込まれたせいか、私はこの曲を密かに「彼岸交響曲」と呼んでいました。子供の不思議な角笛から引用された、この曲に表現されている天国の情景は、私にはなぜか天国というよりは薄明の中の彼岸というイメージでとらえていましたが、それはこのジャケットの絵柄が関係していたのかもしれません。

この曲を初めて知ったのもクレンペラーによる、このアメリカエンジェル盤のLPでした。その後、敬愛する宇野功芳氏が絶賛するバーンスタイン~ニューヨークフィル盤も聴くようになり、インテンポのクレンペラーとは対照的に大きくテンポが変動するバーンスタインの演奏にすっかり魅せられてしまいました。正直、バーンスタインを先に聴いていたら、クレンペラーの演奏はつまらない演奏と片付けてしまっていたかもしれませんが、幸い、先に聴いたのがクレンペラーで良かったと思っています。

身振りが大きく濃厚なバーンスタインの演奏が天国に遊ぶ子供の世界のざわめきを思わせるとすれば、インテンポで動きの少ないクレンペラーの演奏は、まさに「天国というよりは彼岸」における薄明の中の静謐な世界を体験させてくれます。その魅力を知ってしまった以上、その静かな彼岸の世界にいつまでも浸っていたいと思わせられます。

クレンペラーの演奏時間は全曲が55分ほどと標準的なものですが、緩徐楽章の第三楽章が他の指揮者より速いせいで全曲がこの時間で収まったものであり、全体は他の指揮者と比べてもかなり遅めに聴こえます。特に第一楽章などインテンポでテンポが動かないせいもあり、他の指揮者に比べて最も遅く聴こえる演奏かもしれません。

このクレンペラー盤のフィナーレの歌唱にはシュワルツコップが起用されていますが、その歌唱はクレンペラーが作り出す彼岸の世界の中に見事に溶け込んでいます。宇野功芳氏がケルビンのようと評したバーンスタイン盤のレリ・グリストもチャーミングですが、この曲の歌唱で、夕映えのような火照りを感じさせてくれるのは、唯一このシュワルツコップだけです。

さて、最後になりましたが、待望のSACD化の出来栄えや如何に!?

ウ~ン、評価は微妙です。今回のEMIによるSACD化はそのほとんどが、驚異的な音質改善効果を聴かせてくれています。ただ、オイストラッフのブラームスのヴァイオリン協奏曲のように、残念ながら原録音の歪(EMI特有の録音のクセの一種なのでしょうが)が露わになってしまったものもあります。

このマーラーはやはり見事な改善効果を聴かせてくれます。この録音は元々EMIには珍しいほどの五体満足のバランス感覚の良い優秀録音であり、この曲の至る所で登場する第一と第二ヴァイオリンのかけあいが、クレンペラー~フィルハーモニア管特有の対抗配置により効果的に聴こえるのも、この録音のメリットの一つです。左手中央奥に置かれたコントラバスの弾みのある低音の効果も見事に効いています。この録音のHQCD化では何故か、我が家のスピーカーではハイ上がりのバランスで聴こえるようになってしまいましたが、今回のSACD化により元来のバランスを保ったまま、さらにより良く再現されるようになりました。控え目ながらも取り入れられたホールトーンも、このSACDで初めて効果的に聴こえるようになりました。元録音がデジタル録音ではなく、良質なアナログ録音であるというメリットがDSD~SACD化により、より良く発揮された一例といえるかもしれません。

でも、なおかつ評価は微妙、と書いたのは、私には長年親しんだLPのこの曲の演奏のふくよかなサウンドが耳の奥に残ってしまっていて、SACDの音はそれを超えるものではないと思えてしまうからです。もちろんマスターテープの音にはLPよりもSACDの方が忠実なはずであり、LPのサウンドキャラクターをSACDに求めること自体がお門違いなのですが。同じような不満はオイストラッフのベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のSACDにも感じられたことです。SACDでも、もはやLPとは別次元の音として満足させられる場合もあるのですが、この録音のように、一部でなおかつ昔のLPの音が懐かしく思い出されてしまう場合があるのは、むしろ残念なことなのですが。


交響曲第4番 クレンペラー&フィルハーモニア管、シュヴァルツコップ(シングルレイヤー)(限定盤)
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