カラス カルメンのSACD [クラシックCD]
エソテリックのSACDから「カラヤン&カラス グレート4オペラズ」と題してEMIのオペラ全曲4巻を収録したボックスセットが発売されました。エソテリックのSACDは、かねてからその音質には感心させられていました。今回の4つのオペラはカラヤン指揮の「アイーダ」と「サロメ」、カラスが「カルメン」とステレオ録音の方の「トスカ」というラインナップです。これらの中で私のお目当てはカラスのカルメンです。もちろん他の曲もエソテリックならではのSACDで聴いてみたいものばかりですが、特にカラスのカルメンはSACD化を待ち望んでいたものです。そのうち本国のEMIから廉価な輸入盤のSACDが発売されるかもしれませんが、何故か英EMIでは今のところカラスのSACD化だけは温存したまま解禁していないので、待ちきれずにカラスのカルメン以外も含む9枚組27,000円というこのセットを購入しました。
このセットは昨年の12月15日に限定1,500セットで発売されましたが、ネットでその存在を知ったのは今年になってからのことでした。発売後まだ一月足らずだったので、購入を決めてから都内のショップを数店あたってみました。ところがすでに各店とも品切れで、限定盤なのでメーカーからの再入荷もないとのこと。後はユーズドで出てくる高いプレミアム価格のものを待つしかないかと諦めかけていたところ、福岡のアートクルーというオーディオショップで扱っている分にまだ在庫があり、ラッキーにも購入することができました。
http://www.artcrew.co.jp/
ビゼー 「カルメン」
カラス(カルメン)、ゲッダ(ホセ)、マサール(エスカミーリョ)、ギオー(ミカエラ)他 プレートル~パリ国立歌劇場管 エソテリック ESSE-90072/80(SACDハイブリッド)
さて高鳴る期待の元、早速本命のカラスのカルメンから聴いてみました。例によってハイブリッドのCD層からDSDリマスタリングの音質を確認。ウ~ン、コレは何だ!! エソテリック製のSACDはすでに何枚か聴いてきたので予想はしていたとはいえ、アナログの良さ、ここに極まれりといった暖色系の有機的な音質がここまで蘇ったとは。
この録音は64年のステレオ中期にあたりますが、当時のEMIは奇妙なハイ上がりのバランスの録音がたまに見られたものですが、当録音はこれがEMI!? と思えるような好録音で、特にアナログLPは素晴らしく弾力性のあるダイナミックな音がしていました。ところが例によってCD化されると、音質が全体に痩せてしまって(それが本来のマスターテープのバランスなのでしょうが)、新たなリマスタリングが出る度に買い直していましたが、どれもLPのあのダイナミックなふくらみが感じられませんでした。そこでますますSACD化が望まれていました。ところがこのエソテリック製リマスタリングは、CDでもはじめて納得できる音質に蘇りました。やはり、当録音は当時としても優秀録音だったんですね。
さて、次にSACD層へ。おや~っ、こちらの方がレンジは広いので、むしろ一瞬アナログから再びデジタルへ戻ったかなという印象。でも、よく聴けばもちろんその奥行き感や生々しさは凄い!! もちろん昔聴いたアナログLPは別のふくよかな良さがありましたが、このSACDはアナログLPからは聴けない別の臨場感の良さを実感させてくれます。これでやっとアナログLPを懐かしむことなく済みそうです。アナログ録音からのSACD化は、デジタル録音のCDやSACDからは聴けないアナログならではの有機的な生々しさを聴かせてくれます。最新デジタル録音のラトル盤カルメンのSACDと比較してみても、エソテリックのリマスタリングで聴く限り、この約50年も昔の録音の方が音質的には上回るi一面もあるのではないかとすら思われます。
もちろんアナログ録音からのSACD化が全てLPを上回るということではなく、SACDになってもなおかつ失われてしまったLPの音が懐かしくなるケースもあります。今回のカラスのカルメンはその意味では予想を上回る好結果でした。実はこの後発売されるであろう英EMIによる当録音のSACD化と比べると、エソテリックのリマスタリングの出来はどうなのかというのが気になっていたのですが、結果ははこれで十分というもので、その一抹の危惧を吹き飛ばしてくれました。
SACDの音質について書いてきましたが、久しぶりに聴いたカラスのカルメンはやはり凄い。どす黒くしわがれた声の中に秘められた甘美な官能性、それはメゾでもなければアルトでもなく、ましてやソプラノではありません。それは数ある歴代のこの曲の歌唱の中でカラスだけに可能だったカルメン声です。ただしそのカルメン声によって再創造されたカラスのカルメンはメリメの原作のカルメンを、またビゼーの理想像であるカルメンをも飛び越えてしまったカルメンではあるかもしれませんが。
この盤ではカラス以外の周辺のキャストはスター歌手が一切起用されていませんが、生粋のフランス勢で固められたことで、理想的、かつ奇跡的なまとまりの良さを見せています。エスカミーリョのマサールは軽いバリトン、飾り気のない素のフランスの田舎娘にふさわしいギオーのミカエラ、この二人はパリオペラ座のメンバーでしょうか。ホセ役のゲッダのみはフランス人ではありませんが、フランス物を得意にしていたテナーで、澄んだリリックテナーの声質ながら、ビョルリンクのような北欧出身の歌手に共通する強靱な声を併せ持っているので、ヒロイックな一途さが真摯に歌い出されています。そしてプレートル~パリオペラ座管弦楽団の明るく弾むような華やぎ。それらのどれもが、生粋のフランスならではのラテン系特有の明るさを放射しています。そのため今では珍しいグランドオペラ版ながら、本来のオペラコミークらしい軽さとリアリティに不足はありません。
現在は標準版になった台詞版ですらカットされることのあるハバネラの後のカルメンとホセとのわずか数行の短いやりとりが、ここではカラスとゲッダの語りで挿入されているのも極めて効果的です。全曲ここだけ台詞を挿入したプロデューサー(レッゲから代わったグロッツ)の見識の高さを評価したいところです。
ニーチェは北方的なワーグナーに対してビゼーのカルメンを南国的な精気に満ちた作品として絶賛しています。カラスの乾いた声、そしてフランス勢で固められたこの録音をニーチェが聴いたら、いったいどういう評価を下したのかと、ふと思われました。LPに比べるとふくらみ感が物足りないと書いたこの曲のCDですが、LPと比較しない限りはCDレベルでは現役盤としても十分良好な音質なので、レギュラー盤でもカラスのカルメンは是非、一度聴かれることをお薦めします。
カラスがカルメンのすぐ後に録音した、カラス最後のオペラ全曲録音になったプレートルによるステレオ盤のトスカもこの後エソテリック盤で聴くのが楽しみです。カラスのトスカはモノラルのサバータ盤が名盤として知られていますが、個人的にはこの声を失った最晩年のカラスの凄艶な歌唱もそれなりに評価しています。引退直前のカラスはこの時点でまだ40歳を少し過ぎたばかりだったはずですが。
このボックスセットの中ではさらに、ヤマハ製アイーダトランペット使用で話題になったカラヤンのアイーダやカラヤンがベーレンスをタイトルロールに起用したサロメもエソテリック製のSACDの音質で聴けるのが楽しみなところです。
歌劇『カルメン』全曲 カラス、ゲッダ、プレートル&パリ国立歌劇場管(2CD)
このセットは昨年の12月15日に限定1,500セットで発売されましたが、ネットでその存在を知ったのは今年になってからのことでした。発売後まだ一月足らずだったので、購入を決めてから都内のショップを数店あたってみました。ところがすでに各店とも品切れで、限定盤なのでメーカーからの再入荷もないとのこと。後はユーズドで出てくる高いプレミアム価格のものを待つしかないかと諦めかけていたところ、福岡のアートクルーというオーディオショップで扱っている分にまだ在庫があり、ラッキーにも購入することができました。
http://www.artcrew.co.jp/
ビゼー 「カルメン」
カラス(カルメン)、ゲッダ(ホセ)、マサール(エスカミーリョ)、ギオー(ミカエラ)他 プレートル~パリ国立歌劇場管 エソテリック ESSE-90072/80(SACDハイブリッド)
さて高鳴る期待の元、早速本命のカラスのカルメンから聴いてみました。例によってハイブリッドのCD層からDSDリマスタリングの音質を確認。ウ~ン、コレは何だ!! エソテリック製のSACDはすでに何枚か聴いてきたので予想はしていたとはいえ、アナログの良さ、ここに極まれりといった暖色系の有機的な音質がここまで蘇ったとは。
この録音は64年のステレオ中期にあたりますが、当時のEMIは奇妙なハイ上がりのバランスの録音がたまに見られたものですが、当録音はこれがEMI!? と思えるような好録音で、特にアナログLPは素晴らしく弾力性のあるダイナミックな音がしていました。ところが例によってCD化されると、音質が全体に痩せてしまって(それが本来のマスターテープのバランスなのでしょうが)、新たなリマスタリングが出る度に買い直していましたが、どれもLPのあのダイナミックなふくらみが感じられませんでした。そこでますますSACD化が望まれていました。ところがこのエソテリック製リマスタリングは、CDでもはじめて納得できる音質に蘇りました。やはり、当録音は当時としても優秀録音だったんですね。
さて、次にSACD層へ。おや~っ、こちらの方がレンジは広いので、むしろ一瞬アナログから再びデジタルへ戻ったかなという印象。でも、よく聴けばもちろんその奥行き感や生々しさは凄い!! もちろん昔聴いたアナログLPは別のふくよかな良さがありましたが、このSACDはアナログLPからは聴けない別の臨場感の良さを実感させてくれます。これでやっとアナログLPを懐かしむことなく済みそうです。アナログ録音からのSACD化は、デジタル録音のCDやSACDからは聴けないアナログならではの有機的な生々しさを聴かせてくれます。最新デジタル録音のラトル盤カルメンのSACDと比較してみても、エソテリックのリマスタリングで聴く限り、この約50年も昔の録音の方が音質的には上回るi一面もあるのではないかとすら思われます。
もちろんアナログ録音からのSACD化が全てLPを上回るということではなく、SACDになってもなおかつ失われてしまったLPの音が懐かしくなるケースもあります。今回のカラスのカルメンはその意味では予想を上回る好結果でした。実はこの後発売されるであろう英EMIによる当録音のSACD化と比べると、エソテリックのリマスタリングの出来はどうなのかというのが気になっていたのですが、結果ははこれで十分というもので、その一抹の危惧を吹き飛ばしてくれました。
SACDの音質について書いてきましたが、久しぶりに聴いたカラスのカルメンはやはり凄い。どす黒くしわがれた声の中に秘められた甘美な官能性、それはメゾでもなければアルトでもなく、ましてやソプラノではありません。それは数ある歴代のこの曲の歌唱の中でカラスだけに可能だったカルメン声です。ただしそのカルメン声によって再創造されたカラスのカルメンはメリメの原作のカルメンを、またビゼーの理想像であるカルメンをも飛び越えてしまったカルメンではあるかもしれませんが。
この盤ではカラス以外の周辺のキャストはスター歌手が一切起用されていませんが、生粋のフランス勢で固められたことで、理想的、かつ奇跡的なまとまりの良さを見せています。エスカミーリョのマサールは軽いバリトン、飾り気のない素のフランスの田舎娘にふさわしいギオーのミカエラ、この二人はパリオペラ座のメンバーでしょうか。ホセ役のゲッダのみはフランス人ではありませんが、フランス物を得意にしていたテナーで、澄んだリリックテナーの声質ながら、ビョルリンクのような北欧出身の歌手に共通する強靱な声を併せ持っているので、ヒロイックな一途さが真摯に歌い出されています。そしてプレートル~パリオペラ座管弦楽団の明るく弾むような華やぎ。それらのどれもが、生粋のフランスならではのラテン系特有の明るさを放射しています。そのため今では珍しいグランドオペラ版ながら、本来のオペラコミークらしい軽さとリアリティに不足はありません。
現在は標準版になった台詞版ですらカットされることのあるハバネラの後のカルメンとホセとのわずか数行の短いやりとりが、ここではカラスとゲッダの語りで挿入されているのも極めて効果的です。全曲ここだけ台詞を挿入したプロデューサー(レッゲから代わったグロッツ)の見識の高さを評価したいところです。
ニーチェは北方的なワーグナーに対してビゼーのカルメンを南国的な精気に満ちた作品として絶賛しています。カラスの乾いた声、そしてフランス勢で固められたこの録音をニーチェが聴いたら、いったいどういう評価を下したのかと、ふと思われました。LPに比べるとふくらみ感が物足りないと書いたこの曲のCDですが、LPと比較しない限りはCDレベルでは現役盤としても十分良好な音質なので、レギュラー盤でもカラスのカルメンは是非、一度聴かれることをお薦めします。
カラスがカルメンのすぐ後に録音した、カラス最後のオペラ全曲録音になったプレートルによるステレオ盤のトスカもこの後エソテリック盤で聴くのが楽しみです。カラスのトスカはモノラルのサバータ盤が名盤として知られていますが、個人的にはこの声を失った最晩年のカラスの凄艶な歌唱もそれなりに評価しています。引退直前のカラスはこの時点でまだ40歳を少し過ぎたばかりだったはずですが。
このボックスセットの中ではさらに、ヤマハ製アイーダトランペット使用で話題になったカラヤンのアイーダやカラヤンがベーレンスをタイトルロールに起用したサロメもエソテリック製のSACDの音質で聴けるのが楽しみなところです。
歌劇『カルメン』全曲 カラス、ゲッダ、プレートル&パリ国立歌劇場管(2CD)
2013-02-11 17:50
nice!(2)
コメント(0)
トラックバック(0)
コメント 0