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ストラヴィンスキー「春の祭典」100周年記念のCBS、RCA録音集成 [クラシックCD]

ストラヴィンスキー「春の祭典」初演100周年記念のボックスセットがメジャーレーベル2社から発売されました。一つがDG、フィリップス、デッカレーベルを含むユニバーサルのセット、もう一つはCBSとRCAレーベルの録音を集めたソニーのセットです。私は後者のソニーセットを購入してみました。


100th Anniversary of Le Sacre Du Printemps

100th Anniversary of Le Sacre Du Printemps

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Masterworks
  • 発売日: 2013/04/02
  • メディア: CD


こちらのセットの内容は、SP録音からストコフスキーと作曲者自演、モノラル録音からモントゥーとオーマンディ、ステレオ時代に入ってからが作曲者自演、オザワ、ブーレーズ、バーンスタイン、サロネン、ティルソン・トーマスという全10枚の構成です。このボックスセットは一枚ずつオリジナルの紙ジャケットに収納されているのがうれしいところです。

このセットは基本的にオリジナルLPに従って春の祭典のみが1枚ずつに収録されていますが、オリジナル通りオザワ盤には「花火」が、サロネン盤には「3楽章の交響曲」がフィルアップされています。ところが何故かモノのオーマンディ盤はフィルアップされているはずのペトルーシュカはカットされているのに、ジャケットはオリジナル通りのペトルーシュカになっていたりという奇妙な事態が生じています。このように編集方針に乱れは見られるものの、全10枚が4,000円弱という昔の輸入盤LP1枚ほどのバジェットプライスで購入できるのは、時代の流れによるうれしい恩恵といえます。

ガイ・ビロー.jpgブーレーズ~クリーブランド管盤のジャケットは当時のCBSのジャケットを多く手がけたガイ・ビローによるイラストで、LP時代から評判の高かったイラストです。これは既発売のCDでも採用されていました。実は私はこのセットに収録されている演奏のうち、この盤も含めてすでに半数以上のCDは購入済みですが、この盤が紙ジャケ仕様と最新のリマスターで楽しめるようになったのは、このセットならではの恩恵です。

ブーレーズ~クリーブランドの演奏も、何の新発見もない後年の同じコンビによるDGへの再録音より、こちらの旧録音の方が遙かに新鮮に聴こえます。コンサートホールプレゼンスに徹したDGのデジタル録音より、録音もこちらの後期アナログ録音の方が遙かに立体的で色彩感が鮮明に再現されます。ブーレーズはストラヴィンスキーの3大バレエを全てDGに再録音していますが、そこにおける完成度の高さは認めるものの、録音も含めて聴いていてワクワクするようなスリリングな面白さの魅力では、ハルサイ以外の「火の鳥」と「ペトルーシュカ」も含めて断然CBSの旧録音の方が上回るのではないかと思えるのですが。

hess.jpg実はこのセットを購入した最大の理由は、CDになってからは所有していなかったリチャード・ヘスのイラストのジャケットによるバーンスタイン~ロンドン響盤が入っていたことです。このイラストはLP時代に所有していたジャケットで強く印象に残っているものですが、現在そのLPは手元になく、さらにはこの演奏のCDは別のジャケットが使われています。思いがけずも、ヘスのイラストによるジャケットのCDが手に入っただけでも、このセットを購入した価値は十分にあろうというものです。

バーンスタインはこの前のステレオ初期時代にニューヨークフィルとこの曲を録音していますが、そちらも今回別に単独で再リリースされたようです。そちらも若き日のバーンスタインならではの知性が光る名演でしたが、こちらの再録音もヨーロッパに渡る前のバーンスタイン最後の最良の渾身の演奏が聴けます。バーンスタインはヨーロッパ時代に、この後さらにイスラエルフィルとこの曲をDGに再録音していますが、残念ながら、そこではすっかり勢いが失われてしまっています。どうも、私はDGの録音と個人的に相性がよくないようです。

この中で最も新しいのはティルソン・トーマス~ロスフィル盤です。ティルソン・トーマスは若き日にボストン響とこの曲をDGに録音していましたが、それも他の指揮者にはないクールなアプローチが新鮮な演奏で、DG録音では珍しく拾い物になった1枚でした。そこで後年のこちらの再録に十分期待したのですか、何故かレギュラー盤の音質が再生レベルが低く、トーマスの良さが十全に伝わらないもどかしさが残る結果に終わっていました。今回の再発でもレベルは相変わらず低いものの、少し改善されたお陰で、トーマスならではの独自性はレギュラー盤よりは明確に伝わるようになりました。このセットはデジタル録音を含めて全てリマスターが行われたようで、前記のブーレーズ盤をはじめ、その改善効果は高いのですが、トーマス盤もその恩恵で音質が少しだけ向上したのかもしれません。トーマスとサロネンは、そのアプローチは異なるものの、共にこの曲を新たな視点から眺めている眼差しが新鮮です。

今回のセットでもう一つ興味深かったのは、ステレオ以前の往年の録音です。51年のモントゥー~ボストン響のモノラル盤は、この後の56年の英デッカへのパリ音楽院管とのステレオ初期の再録音よりもダイナミックレンジが狭い分平均音量はより大きく聴こえるので、パリ音楽院盤よりもモントゥーの勢いは強いように感じられます。

このモントゥー~ボストン盤と作曲者自演のSP盤では意外にも、ラストにタムタム(orシンバル?)のスリ打ちが入る版が採用されています。ラストの打楽器の追加は3小節前とラストの2回入る版とラスト1回だけの版があるようです。ラストの打楽器の追加がある版は本セット中のステレオになってからのバーンスタイン、トーマスも採用していますが、現在のほとんどの録音ではラストの打楽器の追加は削除した版で演奏されています。

モントゥーのステレオ再録盤や本セット中の作曲者自演盤の後年のステレオ録音でも、ラストの打楽器が削除された版を採用しています。ステレオ録音の作曲者自演盤では、その前のフィナーレのクライッマクスでティンパニ、大太鼓と共に連打されるタムタムも聴こえません。この時代の録音でこのパートが聴こえないはずはないので、作曲者はこの録音の1960年という時点で、この部分のタムタムのパートも削除したのかもしれません。

SPのストコフスキー~フィラデルフィア盤は29年という録音時ではこの曲のオーケストラは残念ながら大雑把な外観しか捉えられていませんが、ストコフスキー節は当時のこんな現代曲でも健在だったことがわかります。同コンビによるこの曲の演奏はディズニーアニメの『ファンタジア』にも使われていたので、私にはそのサントラとしても懐かしく聴くことができました。

モノラルのオーマンディ~フィラデルフィア盤は随分とテンポも速く、55年という録音時にしては意外に現代的な若々しい演奏です。このコンビが当時最強の機能性を誇っていたであろうことが伝わってきます。

今回のセットの中でオザワ~シカゴ響盤は私にとって初めて聴く演奏になりましたが、一見薄味に聴こえるその演奏も、よく聴けばオザワだけのピュアな音楽がそこには脈打っているのがわかります。

ハルサイファンの方々は私同様、このセットの中の収録演奏のいくつかははすでに所有されているものも多いと思われますが、たとえ重複する演奏が含まれていたとしても、このセットの集成は貴重なものだと思います。

私は過日、ハルサイの生をハーディング~新日本フィルの演奏で聴きました。そこでは、近年の日本のオケの技術の進歩に目を見張らされ、ハーディングのバランス感覚のよいディレクションにも感心させられました。でもでも、ハルサイはやっぱり再生音で聴く方が生より圧倒的に面白いのは何故でしょうか。

『春の祭典』初演100年記念ボックス(10CD)
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