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ヘンデルのサラバンド [クラシックCD]

ハイドシェックがピアノで弾いたヘンデルのチェンバロ組曲のCDをネットで見つけたので早速購入して聴いてみました。ハイドシェックのヘンデルの組曲は全部で4枚出ているようですが、通常はほとんど演奏されない第2巻からの組曲も取り上げられているのが特徴です。お目当てはこの第2巻第4番ニ短調組曲HWV437の中のサラバンドで、4枚の中からその組曲が収録された盤を購入してみました。

ヘンデルのチェンバロ組曲は第1巻の8曲が有名で、第2巻が取り上げられる機会は極めて少ないようです。第2巻には紛らわしいことに、もう一つ順番を接して第3番ニ短調という同調の組曲HWV436が別に存在します。このため有名な第4番の方のニ短調組曲を誤って第3番HWV436に数えている盤もあります。ハイドシェックによるこの盤では、437のニ短調組曲は第1巻からの通し番号の第11番と呼ばれていますが、これは435のシャコンヌを外して数えた順番と思われます(436は第10番)。

ハイド.jpg実はこのサラバンドはキューブリックの映画『バリー・リンドン』に用いられて有名になった曲です。故キューブリックは映画の中で本当に巧妙に知られざるクラシックの名曲を用いて驚かせてくれますが、この曲も映画を見て初めて出会った曲です。映画では主人公の悲劇的な後半生を象徴するかのように、太鼓を伴ったオーケストラに編曲されていて、重々しい葬送の曲のように扱われていました。この曲がチェンバロ組曲の1曲であったことを知ったのは、映画を見てからかなり後のことでした。

ヘンデルのこのサラバンドはその引きずるようなリズムがほとんどフォリアのように響きます。実際、パニアグアによるフォリアを集めた1枚には、別の出典から取られたこのサラバンドと同じテーマによる曲がフォリアの1曲として収録されていました。

ヘンデルはフォリアのようなこのサラバンドのテーマに2つのドゥーブル(変奏)を加えていますが、ハイドシェックはさらに自身のオリジナルの変奏を加えていて、計7つもの変奏が続きます。

ハイドシェックはヘンデルの組曲が好きらしく、アンコールでもしばしば何曲かを取り出して演奏しています。ハイドシェックらしい自由気ままなヘンデルには独特なチャーミングな魅力があり、ハイドシェックのヘンデルへの思い入れに納得がいきます。ハイドシェックはヘンデルの組曲から、バッハとはまた異なる後期バロックの鍵盤音楽ならではのよい意味でのBGMのような幸せなくつろぎ感を引き出しています。

曽根.jpg現在は廃盤のようですが、曽根麻矢子さんがチェンバロを弾いて録音した『シネマ・チェンバロ』と題された一枚があります。このCDはそのタイトル通りに映画で使われたチェンバロ曲を集めた一枚で、この中にもヘンデルのサラバンドを含むニ短調組曲が収録されています。

余談ながら、この一枚にはアンジェイ・ワイダ監督の『灰とダイヤモンド』で使われたオギンスキのポロネーズイ短調が入っています。映画の方は見ていないので、この盤で初めて知った曲ですが、チェンバロで弾かれた短調のポロネーズというのは、独特の哀感があっていいものです。オギンスキはショパンに先立って何曲かのピアノ用のポロネーズを書いたポーランドの軍人作曲家のようです。この曲も原曲はピアノ曲でしょうか。

中野.jpg中野振一郎さんのチェンバロによるヘンデル作品集『調子のよい鍛冶屋』の中でも、表題曲を含む有名な第1巻第5番ホ長調組曲や、終曲のパッサカリアで有名な第1巻第7番のト短調組曲と共に、第2巻のこのニ短調組曲が取り上げられています。

中野さんの演奏のニ短調組曲では、通常はカットされることの多いプレリュード(後に発見された?)も含んでいます。またサラバンドでは、曽根さんの演奏ではテーマの後に譜面通り(?)に2つのドゥーブルが続くだけで、あっさりと終わってしまいますが、中野さんの演奏では2つのドゥーブルの後にさらにコーダ(装飾を加えたテーマの再現)が加えられていて、テーマの他に計3つのドゥーブルがたっぷりと楽しめる演奏になっています。

キース.jpgもう一枚はジャズピアニストのキース・ジャレットがヘンデルの組曲をピアノで弾いた一枚です。第1巻からの組曲中心に選ばれていて、第2巻から1曲と全2巻に含まれていない組曲も取り上げられています。残念ながらサラバンドの入っている第2巻のニ短調組曲は収録されていませんが、ジャレットらしい清新なヘンデルを聴かせてくれています。

ジャレットのクラシックのピアノ演奏は、クラシックのピアニストのタッチに見られるような因習的なメソッドの手垢が見られないので、純粋なキーボード音楽としての、よりピュアなピアノの音色を楽しむことができます。クラシックのピアニストのピアノの音を一旦白紙に戻して、さらに蒸留させたような音といったらよいでしょうか。ジャレットのピアノの音に比べればハイドシェックのきれいなピアノの音ですら、何と余分な夾雑物がまとわりついているのかと思わせるほどです。

このヘンデルでも、グールドが唯一チェンバロで録音した第1巻からの抜粋(第1番~第4番)のわざとギクシャクとさせたオドロオドロしい演奏(これはこれで気に入っているのですが)と同じ曲(第3番を除く第1、2、4番が共通)を聴き比べてみると、ジャレットの演奏は何と清冽なリリシズムを感じさせてくれることでしょうか。




組曲第9、11、12、14番 ハイドシェック icon

Harpsichord Works: 中野振一郎(Cemb) icon

ヘンデル/クラヴィーア組曲 キース・ジャレット icon





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trefoglinefan

ハイドシェックのヘンデルは、他のピアニストからはとても聴けない世界だと思います。

by trefoglinefan (2009-04-02 02:20) 

mickey

>trefoglinefanさん、ご訪問ありがとうございます。
ハイドシェックはサラバンドのテーマを予想に反して、弱音であっさりと弾いていて、それがたまらなくお洒落です。
by mickey (2009-04-02 21:52) 

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