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フー・ツォンのショパン夜想曲 [クラシックCD]

今、ショパン生誕200年で次々に記念盤が発売され、クラシックCD界は賑わっています。こういう機会だからこそ是非、再発して欲しかった録音が長らく廃盤状態になっているフー・ツォンの「夜想曲」全集です。

フー・ツォン.jpgここにご紹介しているジャケットは、CDとしては最初期の84年製のフー・ツォンの夜想曲全集の2枚組のセットです。残念ながら、25年以上が経過した今、何故か突然音飛びで再生不能の状態になってしまいました。盤面は少しも傷付いていないので、信号面の経年変化による劣化と考えられます。20年以上が経過したCDは他にもありますが、いずれも問題なく再生できるので、このCDは何らかの製造上の欠陥があったのかもしれません。

プレーヤーで読めなくなったCDはパソコンで記録用CDにコピーし直すと読めるようになる場合があると言われています。そこで試してみたところ、1枚目は無事救出に成功しましたが、2枚目はコピーも同様に音飛びは直りませんでした。

というわけで、全集のうちの片割れの一枚だけがコピーで残ったフー・ツォンの夜想曲です。こちらの最初の一枚の方にフー・ツォンの演奏の中でも全曲中の白眉とも言える遺作の第20番嬰ハ短調が入っていたのは、せめてもの幸いです。

フー・ツォンのショパン夜想曲は全曲に激しい感情移入が見られます。フー・ツォンのショパンは特別に他の人と変わった弾き方をしているわけではないのですが、尋常ではない、その没入ぶりの激しさに、ショパンが苦手(!?)の私としても、このショパンには強く惹きつけられました。

中国出身のフー・ツォンの両親は文化大革命の犠牲になったという話が伝えられていますが、フー・ツォンのこの演奏に聴かれる没入力の激しさは、もしかしたらそうした悲劇的な経験を反映しているのかもしれません。

なかでも、遺作の嬰ハ短調の夜想曲に聴かれる身を切られるように痛切な哀感は出色です。このショパン若書の夜想曲は、聴きようによっては、我慢がならないほど甘くセンチメンタルな曲です。このめちゃくちゃ甘いショパン青春の曲からフー・ツォンは何と痛切な深い悲しみを引き出していることか。

というわけで、やはりショパン生誕200年の機会だからこそ、再発を待ち望んでいたフー・ツォンの夜想曲です。残念ながら、その期待は敵わずに終わりそうですが、何と遺作の第20番と第21番のみフー・ツォンの演奏を収めたショパン生誕200年記念のボックスセットが発売されました。この15枚組のセットはヨーロッパのソニー製で、ショパンのほぼ全ての有名曲がCBSと傘下のRCAレーベルの複数のピアニストの演奏で収められています。夜想曲は定評の高いルービンシュタインのRCA録音による全曲が収録されていますが、ルービンシュタインは遺作を録音していなかったので、遺作のみフー・ツォンの演奏にお鉢が回ってきたというわけです。

最近の円高の追い風もあり、この15枚組のセットは信じられないような安い値段です。フー・ツォンの2曲の遺作の夜想曲を聴くためだけでも惜しくないと思い、このセットを購入してみました。

このセットで聴くフー・ツォンの25年ぶりとなる遺作の夜想曲のリマスターは、やはり見違えるようにしっかりとした音に改善されています。こうなると、ますますフー・ツォンによる夜想曲の全曲を新しいリマスターで聴きたかったところです。

幸いこのセットには他にもフー・ツォンによる番外のマズルカの何曲かが収録されています。この後、ゆっくりとフー・ツォンのマズルカや他のピアニストによるセット中のショパンを聴いてみることにしましょう。





ショパン・レジェンダリー・パフォーマンス(ルービンシュタイン、カツァリス、キーシン、アックス、他)(15CD限定盤)
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ここで私が所有している他のピアニストによるショパン遺作の嬰ハ短調夜想曲を聴いてみました。

アラウ.jpgまずアラウの78年の夜想曲全曲録音から。当時75歳に達していた晩年のアラウの演奏です。若い時は技巧派で鳴らしたアラウですが、この頃になると深みのある音楽をじっくりと聴かせる老巨匠といった趣が強くなっていました。

この嬰ハ短調遺作の夜想曲もゆったりと訥々としたタッチで弾かれています。ショパン青春時代の感傷的な曲が、老人の若き日の苦い思い出でもあるかのように切々と歌われていて、深い感銘を受ける演奏です。





zarafiants.jpg次にアラウとはかなり歳の離れた若手、中堅の一人ザラフィアンツで聴いてみました。ザラフィアンツはこの曲をアンコールピースを集めたリサイタル盤の中で取りあげています。当初はフー・ツォンやアラウに比べて、随分と楽天的で深みにかける演奏だと思っていましたが、今回聴き比べで再試聴してみて、驚くべき個性的な閃きに満ちた演奏であることがわかりました。一見、ノンシャランとした演奏ながら、楽譜の一音一音がザラフィアンツならではの個性的なアーティキュレーションで歌われています。

フー・ツォンやアラウの演奏では原曲以上に立派な曲に聴こえてしまいますが、ザラフィアンツの演奏ではショパン若書きの等身大の曲として聴くことができます。この曲がこんなにも幸福感に溢れた曲に聴こえるとは!!  さながら一編の春の夜の夢のように甘く切なく、しかし決して感傷的ではない夜想曲に仕上がっています。ザラフィアンツは若手の中ではやはり得難い才能を持ったピアニストであると改めて思いました。

この後、もう一度フー・ツォンに戻ってこの曲を聴いてみました。ウーム!! やはり、その痛切さは圧倒的!! この曲をここまで弾き込めるピアニストがいて、その演奏がCDに残され、それを聴けた、という体験は一つの幸福な奇跡なのかもしれません。





夜想曲集(第1~21番)、ほか アラウ(p)(2CD)
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Fur Elise-piano Pieces: Zarafiants
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