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ヤナーチェクのシンフォニエッタ [クラシックCD]

ヤナーチェクのシンフォニエッタは、村上春樹のヒット小説『1Q84』の中に登場するということで、今話題になっています。以前のブログにも書いた曲ですが、再度聴いて取りあげてみました。

このところの話題に乗り、この曲は最近NHKのBS放送でも特集されました。その番組によると、この曲はチェコ語独特の話し方のイントネーションが、そのリズム感に反映されているということです。その事実は新たな発見でしたが、この曲が独特なのはそのリズム感だけではなく、その音楽から放出されるどこかシュールで異様な雰囲気です。

通常の2管編成のオーケストラの他に、何とトランペットだけで9人、バストランペット、テナーテューバ各2人計13人もが加わる別働隊のブラスバンドを必要とする、その編成自体が、たがだか30分足らずの曲の編成にしてはかなり異常です。ただし、このブラスバンドによるファンファーレはオープニングとフィナーレの最後という全曲の両端だけにしか登場しません。この曲はある祝祭に際して作曲されたということなので、ブラスバンドによる軍楽隊が加わるというのは特に驚くことではないのかもしれません。それにしては単なる祝祭用の音楽ということではかたづけられない、この曲の不可思議でシュールな雰囲気は一体どこから来ているものなのでしょうか。

どこか遠い宇宙の果ての他の惑星で行われている運動会の音楽と言えば、まあこの曲のシュールな雰囲気を少しは言い当てているかもしれません。同じチェコ出身の作家カレル・チャペックの『長い長いお医者さんの話』にもうかがえるように、東欧のチェコにはシュールレアリスムを育む独自の文化的な土壌があるのかもしれません。ヤナーチェクは音楽家として、そのシュールレアリスムの伝統を受け継いでいるのでしょうか。『利口な雌狐の物語』、『マクロプロス事件』、『ブロウチェク氏の旅行』といったオペラは、このシンフォニエッタよりさらに直接的にシュールな作品と言えます。

セル.jpgこの曲を初めて聴いたのは、セル~クリーヴランド管の演奏でした。その後、この曲はセル以外の指揮者でも数多く聴きましたが、最初に聴いたのがセルで良かったと言えるような、これはいい演奏です。村上春樹の小説中に出てくる演奏も、このセル盤のようです。

セルの硬質で無機的な音楽作りは、曲によってはいつも関心させられるとは限りません。ところがこの曲では、まさにその行き方が奏功して、結果、曲想の異様な雰囲気が生々しく浮き彫りにされています。この曲のシュールな雰囲気が白日夢でもあるかのように、リアルにそのまま白日の下に晒け出されたかのような演奏です。何と45年も昔に遡る65年の録音ながら、現在のデジタル録音と比べてもほとんど遜色のない優秀な録音なのがうれしいところです。ステレオ録音以降のレコーディング録音は、もしかしたらこの50年間ほとんど実質的には進歩していないのではないでしょうか。この録音は現在ではブルースペック仕様の特製盤(限定版?)でも出ているようです。

マッケラス.jpgその後、聴いたこの曲の演奏の中では出色の出来だったのが、マッケラス~ウィーンフィル盤です。当初はこの曲にウィーンフィルの伝統的な音色は似合わないのではないかと思っていました。

ところが実際に聴いてみると、これが耳から鱗の出来。ウィーンフィルの古風なブラスの音で奏でられるファンファーレは、セルによるクリーヴランドのモダンな響きとはまた別の蒼古な魅力があります。ウィーンフィルには東欧のハンガリーの血が混じっているというせいもあってか、意外にも同じ東欧のヤナーチェクにはふさわしいのかもしれません。今や随分モダンでインターナショナルな音色のオーケストラになってしまったと思っていたウィーンフィルですが、こうして聴いてみると、そのブラスの音は随分独特で、やはり依然昔ながらの伝統が残されていることに改めて気づかされました。

マッケラスはヤナーチェクのスペシャリストして知られています。ウィーンフィルの古風な音色を逆手に取って、この曲の新たな一面を聴かせてくれたのも、マッケラスならではの読みの深さがあってのことかもしれません。

ただ一つ不満が残るのは、この曲に使われている鐘の音にマッケラスはグロッケンシュピール(鉄琴)を使っていることです。多分ヤナーチェクのスコアの指示には単にベル(鐘)と書いてあって、ベルとも言われるグロッケンシュピールを使っても一向に差し支えないわけです。実際マッケラス以外でもこの曲にグロッケンを使う指揮者はいます。ところが最初に聴いたセルの演奏がチューブラーベルだったので、それが耳に焼き付いてしまい、グロッケンを受け付けなくなってしまいました。作曲者自身の意図はどちらであったにせよ、この鐘の音は警鐘のような効果もあるので、絶対チューブラーベルの方がふさわしいと思うのですが。

それにしてもこのシュールな曲が、村上春樹の小説中では一体どういう文脈に絡んでいるのでしょうか?






バルトーク:管弦楽のための協奏曲、ヤナーチェク:シンフォニエッタ セル&クリーヴランド管(限定盤)
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シンフォニエッタ、タラス・ブーリバ マッケラス&ウィーン・フィル
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