モーツァルト フルートとハープ協奏曲のSACD [クラシックCD]
モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲のランパル、ラスキーヌ盤がSACD化されたので、久しぶりにこの曲を聴いてみました。
この曲はモーツァルトのパリ旅行に際して作られた典型的な機会音楽の一つで、耳に快いメロディーが次から次へと流れて行く、むしろかなり皮相な作品です。フィナーレを除いたら、他のモーツァルトの作品に比べても特に魅力的なメロディーが出てくるわけでもありません。にもかかわらず、この曲はその全てが純粋なモーツァルトそのものの魅惑に輝いています。精神的な深さなど全くないところが、まさに徒花のように咲くこの曲の魅力といえるでしょう。
その徒花を最も魅力的に咲かせている演奏は、今もってランパルのフルートにラスキーヌのハープとパイヤール合奏団によるステレオ初期の録音です。
今ではピリオド演奏が普通になってしまったモーツァルトですが、モーツァルトならではの表情の美しさはモダン楽器でなければ現わせないような気がします。バロックまでだったら、ピリオド楽器の方がモダン楽器より、より強い表現力を聴かせる場合が多いのですが、モーツァルト以降の音楽では、やはりモダン楽器の方が圧倒的に表現力の幅が広がります。それはこんな軽い曲でも言えます。この曲をピリオドでやられると、次から次へと生まれてくるこの曲の夢の世界が、ことごとく現実の世界に引き戻されてしまったかのように聴こえます。
数あるモダン演奏の中でもランパル、ラスキーヌ、パイヤール盤は出色の出来です。少し鼻にかかったようなヴィヴラートが典型的なフレンチフルートの魅力を伝えるランパル、ハープならではのこぼれ落ちるようなチャームをふりまくラスキーヌ、羽毛のようなと譬えられたパイヤール合奏団の軽やかなストリングス、その組み合わせはこの曲をモダン楽器で聴く上での一つの理想形と言えるものであるかもしれません。
演奏時間では他の演奏より極くわずかに短いだけなのですが、聴感上では標準的な他の演奏よりも極めて速く聴こえます。それだけ表現がキビキビとして敏捷なせいでしょうか。小粋で華やか、かつピリリと敏捷な、ある意味でパリッとドライに乾いたこの演奏よりも、モダン楽器でもよりシットリして、ウェットな演奏の方を好まれる方もいらっしゃるかもしれません。個人的にはよりシットリとした他のモダン楽器による演奏は、だからこそ気の抜けたビールのように聴こえてしまうのですが。
さて、今まで聴いてきたこの曲のピリオド演奏にはことごとく失望させられてきましたが、全く期待せずに聴いたアーノンクール盤のこの曲のピリオド演奏にはびっくりさせられました。
アーノンクールはピリオド演奏の騒々しさを逆手にとって、モダンでは表現できないピリオド演奏ならではの面白さを聴かせてくれています。開始早々、何やらいかがわしいパリの見世物小屋のショーが始まったかのような、猥雑な雰囲気です。ああ、この曲ってこういう一面もあったのかという、目から鱗の驚きです。
吉野直子を起用したチリンチリンと鳴る古楽器のハープの音質もオルゴールのようで古雅な魅力があります。トラヴェルソはモダンフルートに比べると輝かしさに欠けるのですが、この演奏の全体の調和の中では、やはりこの木質のくすんだ音色でなけれななりません。この演奏はモダン楽器の演奏が表現する夢の世界とは、また異なる別の夢の世界を見せてくれているのかもしれません。
この演奏、フィナーレのロンドのテーマでは何と慣例とは異なるアポジァトゥーラ(楽譜上は8分音符)の読み替えが行われているという、ドッキリおマケまでついています。曲中何度も現れるロンドのテーマが別のテーマになってしまっているといってもいいほどです。アーノンクールはやはり、ただの鼠ではなかったようです。
さて、今日の本題、ランパル、ラスキーヌ盤のSACDです。オーディオメーカーのエソテリック製ですが、このシリーズのSACDはどれもびっくりするような音質改善効果が見られます。さて、本盤の出来は如何に?
エラート録音のこの演奏のレギュラー盤CDも、もともと十分に良好な音質でした。LP時代に聴き親しんだエラートらしい、独特の少し癖のあるスパイシーな高域がCDでも確認できるのはうれしいことです。
さてエソテリックのリマスター盤ですが、例によりハイブリッドのCD層から視聴。ウーン、やはり改善効果は凄まじい!! 最良の最新の高ビットのデジタル録音を優に上回る、ナチュラルでしなやかな音質。ただ、これだけ改善されてしまったおかげの代償として、あのエラート独特の癖は少なくなってしまったかもしれません。でも、まあそう思えるぐらいにこのリマスタリングでは、約50年も前(1963年録音)のこの録音が最新録音に近い音質バランスに聴こえます。エラート特有の癖というのは、以前のレベルのLPやCDのリマスタリング技術との相乗効果で産みだされる歪みの一種だったのかもしれません。録音本来の情報を丁寧に忠実に救い出すことで、歪成分は軽減されてしまったのでしょうか。
アナログ録音のリマスターを収録したハイブリッド仕様のSACDではよく経験することですが、まずCD層でのDSDによるリマスタリングの改善効果に驚かされてしまい、SACD層に進んでもさほど驚かないというケースがよくあります。本盤がまさにそうで、CD層でこれだけの改善効果を聴かされてしまうと、本命のSACD層の方がオマケかとすら思ってしまいます。でも、もちろんよく聴けば、SACD層ではさらにみずみずしい情報量が追加されます。
エソテリック製のSACDは通常のCDショップではなくオーディオショップか、ネット上でしか入手できないかもしれませんが、興味のある方は、是非聴かれてみてはいかがと思います。
フルートとハープのための協奏曲、クラリネット協奏曲 ランパル、ラスキーヌ、ランスロ、パイヤール&パイヤール室内管
フルートとハープのための協奏曲、他 吉野直子、アーノンクール&ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
この曲はモーツァルトのパリ旅行に際して作られた典型的な機会音楽の一つで、耳に快いメロディーが次から次へと流れて行く、むしろかなり皮相な作品です。フィナーレを除いたら、他のモーツァルトの作品に比べても特に魅力的なメロディーが出てくるわけでもありません。にもかかわらず、この曲はその全てが純粋なモーツァルトそのものの魅惑に輝いています。精神的な深さなど全くないところが、まさに徒花のように咲くこの曲の魅力といえるでしょう。
その徒花を最も魅力的に咲かせている演奏は、今もってランパルのフルートにラスキーヌのハープとパイヤール合奏団によるステレオ初期の録音です。
モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲、クラリネット協奏曲(再プレス)
- アーティスト: パイヤール(ジャン=フランソワ),モーツァルト,パイヤール室内管弦楽団,パイヤール室内管弦楽団,ラスキーヌ(リリー),ランパル(ジャン=ピエール),ランスロ(ジャック)
- 出版社/メーカー: WARNER MUSIC JAPAN(WP)(M)
- 発売日: 2008/01/31
- メディア: CD
今ではピリオド演奏が普通になってしまったモーツァルトですが、モーツァルトならではの表情の美しさはモダン楽器でなければ現わせないような気がします。バロックまでだったら、ピリオド楽器の方がモダン楽器より、より強い表現力を聴かせる場合が多いのですが、モーツァルト以降の音楽では、やはりモダン楽器の方が圧倒的に表現力の幅が広がります。それはこんな軽い曲でも言えます。この曲をピリオドでやられると、次から次へと生まれてくるこの曲の夢の世界が、ことごとく現実の世界に引き戻されてしまったかのように聴こえます。
数あるモダン演奏の中でもランパル、ラスキーヌ、パイヤール盤は出色の出来です。少し鼻にかかったようなヴィヴラートが典型的なフレンチフルートの魅力を伝えるランパル、ハープならではのこぼれ落ちるようなチャームをふりまくラスキーヌ、羽毛のようなと譬えられたパイヤール合奏団の軽やかなストリングス、その組み合わせはこの曲をモダン楽器で聴く上での一つの理想形と言えるものであるかもしれません。
演奏時間では他の演奏より極くわずかに短いだけなのですが、聴感上では標準的な他の演奏よりも極めて速く聴こえます。それだけ表現がキビキビとして敏捷なせいでしょうか。小粋で華やか、かつピリリと敏捷な、ある意味でパリッとドライに乾いたこの演奏よりも、モダン楽器でもよりシットリして、ウェットな演奏の方を好まれる方もいらっしゃるかもしれません。個人的にはよりシットリとした他のモダン楽器による演奏は、だからこそ気の抜けたビールのように聴こえてしまうのですが。
さて、今まで聴いてきたこの曲のピリオド演奏にはことごとく失望させられてきましたが、全く期待せずに聴いたアーノンクール盤のこの曲のピリオド演奏にはびっくりさせられました。
- アーティスト: モーツァルト,ニコラウス・アーノンクール,吉野直子,ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
- 発売日: 2011/07/20
- メディア: CD
アーノンクールはピリオド演奏の騒々しさを逆手にとって、モダンでは表現できないピリオド演奏ならではの面白さを聴かせてくれています。開始早々、何やらいかがわしいパリの見世物小屋のショーが始まったかのような、猥雑な雰囲気です。ああ、この曲ってこういう一面もあったのかという、目から鱗の驚きです。
吉野直子を起用したチリンチリンと鳴る古楽器のハープの音質もオルゴールのようで古雅な魅力があります。トラヴェルソはモダンフルートに比べると輝かしさに欠けるのですが、この演奏の全体の調和の中では、やはりこの木質のくすんだ音色でなけれななりません。この演奏はモダン楽器の演奏が表現する夢の世界とは、また異なる別の夢の世界を見せてくれているのかもしれません。
この演奏、フィナーレのロンドのテーマでは何と慣例とは異なるアポジァトゥーラ(楽譜上は8分音符)の読み替えが行われているという、ドッキリおマケまでついています。曲中何度も現れるロンドのテーマが別のテーマになってしまっているといってもいいほどです。アーノンクールはやはり、ただの鼠ではなかったようです。
さて、今日の本題、ランパル、ラスキーヌ盤のSACDです。オーディオメーカーのエソテリック製ですが、このシリーズのSACDはどれもびっくりするような音質改善効果が見られます。さて、本盤の出来は如何に?
エラート録音のこの演奏のレギュラー盤CDも、もともと十分に良好な音質でした。LP時代に聴き親しんだエラートらしい、独特の少し癖のあるスパイシーな高域がCDでも確認できるのはうれしいことです。
さてエソテリックのリマスター盤ですが、例によりハイブリッドのCD層から視聴。ウーン、やはり改善効果は凄まじい!! 最良の最新の高ビットのデジタル録音を優に上回る、ナチュラルでしなやかな音質。ただ、これだけ改善されてしまったおかげの代償として、あのエラート独特の癖は少なくなってしまったかもしれません。でも、まあそう思えるぐらいにこのリマスタリングでは、約50年も前(1963年録音)のこの録音が最新録音に近い音質バランスに聴こえます。エラート特有の癖というのは、以前のレベルのLPやCDのリマスタリング技術との相乗効果で産みだされる歪みの一種だったのかもしれません。録音本来の情報を丁寧に忠実に救い出すことで、歪成分は軽減されてしまったのでしょうか。
アナログ録音のリマスターを収録したハイブリッド仕様のSACDではよく経験することですが、まずCD層でのDSDによるリマスタリングの改善効果に驚かされてしまい、SACD層に進んでもさほど驚かないというケースがよくあります。本盤がまさにそうで、CD層でこれだけの改善効果を聴かされてしまうと、本命のSACD層の方がオマケかとすら思ってしまいます。でも、もちろんよく聴けば、SACD層ではさらにみずみずしい情報量が追加されます。
エソテリック製のSACDは通常のCDショップではなくオーディオショップか、ネット上でしか入手できないかもしれませんが、興味のある方は、是非聴かれてみてはいかがと思います。
フルートとハープのための協奏曲、クラリネット協奏曲 ランパル、ラスキーヌ、ランスロ、パイヤール&パイヤール室内管
フルートとハープのための協奏曲、他 吉野直子、アーノンクール&ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
2011-10-06 21:45
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