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クレンペラーのフランク交響曲SACD [クラシックCD]

長年LPで音楽を聴いてきた者にとっては、LPで聴いていた往年の録音をCDで聴き直してみると、いわゆるツルピカな薄っぺらな音になってしまい、がっかりさせられることが多々あります。そんなCDへの疑問を見事に払拭してくれたのがオーディオメーカーのエソテリックによる往年のアナログ録音のSACD化です。ムラヴィンスキーのチャイコフスキーの後期3大交響曲に驚いたばかりのところ、今度はクランペラーのフランクの交響曲がリリースされました。

クレンペラー.jpgムラヴィンスキーのチャイコフスキーは誰しもが認めるアナログ時代の名盤ですが、今回エソテリックによりSACD化されたクレンペラーのフランクの交響曲は決して定評の高い演奏ではありませんでした。なぜなら、あまりにドイツ的に重厚すぎるその表現がフランスの作曲家による交響曲にはふさわしくないと思われていたせいかもしれません。

ところが個人的には、宇野功芳氏をしてアルプスの高峰を仰ぎ見るかのような名演と評せしめた、その演奏にLP時代に魅了されてしまっていました。クレンペラーのフランクにはまさにフランス版のブルックナーといった趣が強く感じられます(だから評判がよくなかった!?)。晩年のクレンペラーに特有の遅いテンポの演奏ですが、それは決して弛緩した演奏なのではなく、フランク特有の憧れの感情が、遅いテンポを取ることによって痛切に熱く表現されています。むしろ当時80才を超えていた老巨匠の棒とは思えないような若々しい緊張感の強い表現です。クレンペラーでこの曲を聴いてしまったら、他の指揮者によるこの曲の演奏など、生ぬるくって聴くに堪えません。

唯一の例外は天馬空を駆けるといった趣のモントゥーの演奏だけかもしれません。昔、よく言われたようにデュオニソス的なクレンペラーに対して、まさにモントゥーはその対極にあるアポロ的な演奏の代表です。幸いなことに、モントゥー盤もRCAの手によってSACD化されています。


フランク:交響曲ニ短調

フランク:交響曲ニ短調

  • アーティスト: モントゥー(ピエール),フランク,ストラヴィンスキー,ボストン交響楽団,シカゴ交響楽団,ジゲラ(バーナード)
  • 出版社/メーカー: BMG JAPAN
  • 発売日: 2005/10/26
  • メディア: CD


今回、参考までにこのSACD化されているシカゴ響とのステレオ・セッション録音によるモントゥー盤とクレンペラー盤の演奏時間を比べてみたら、何と信じがたいことに第一楽章と第二楽章は各々約10秒ほどの差ながら、モントゥーの方がわずかながらも遅いのです。このぐらいの差だと、両者間で部分的なテンポの速い、遅いの違いはあるのでしょうが、全体としての聴感上の印象は実際の演奏時間とは逆で、モントゥーの方が明らかに断然速く、クレンペラーの方が圧倒的に遅く聴こえます。初めこの演奏時間表記を見たときは、これは見間違いかと思いました。聴感の上では重い表現のクレンペラーは遅く、軽い表現のモントゥーは速く聴こえるので、楽章全体ではモントゥーの方が5分ほど速く、クレンペラーの方が5分ほど余計にかかっているのではと思っていました。

今回たまたま調べてみたおかげで、実際はモントゥーの方が遅かったことに驚かされると同時に、クレンペラーの特徴でもあるテンポの遅さは、物理的な遅さなのではなく、重厚で独特なインテンポの表現が遅く感じさせていたのだということがわかり、納得させられました。クレンペラーの演奏では速い部分でも、他の指揮者に見られるようなアッチェレランドがかかりません。その慌てず騒がずといった趣の速い部分のインテンポ感が、クレンペラーの演奏を特に遅く感じさせている原因かもしれません。一方その反対に、できるだけ余分な表情をつけないように端然と進んでいくモントゥーの表現が、実際よりも速く聴こえるのもわかるような気がします。

クレンペラー~フィルハーモニアのEMIによるステレオ録音は、なぜか他のEMI録音のような妙な癖が感じらないまともなバランスの録音が多く、CD化されてもその印象は変わりません(もちろん、なかにはEMIらしい? 帯域バランスが高域に偏った妙な録音はクレンペラーの録音にも見られますが)。この録音はフィルハーモニアがニューフィルハーモニアに改称した当時の1966年の録音で、LP時代に聴いても威力的な好録音でしたが、幸いCDで聴いても、その良好な音質は保たれています。この録音のレギュラーCDは現在ではHQCDの特別仕様盤(価格は廉価仕様)で出ているようです。


フランク:交響曲二短調

フランク:交響曲二短調

  • アーティスト: クレンペラー(オットー),フランク,ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
  • 出版社/メーカー: EMIミュージックジャパン
  • 発売日: 2010/10/20
  • メディア: CD


さて、話をクレンペラーのSACDに戻すと、やはり凄い。もちろん最新録音のような細部の鮮明さはありませんが、アナログ全盛期の分厚いねっとりとした重厚な音が我が家のスピーカーから、しかもLPではなくCDで再生されるということ自体、驚異的です。このSACDで聴くと、マスターテープに収録されていた情報量がLPを上回るものだったことに初めて納得がいきました。

このSACDには同じクレンペラー~フィルハーモニアの演奏でフランクよりさらに古いステレオ初期の60年録音のシューマンの第4交響曲がフィルアップされています。これは現在の水準から見れば歪感さえ感じさせる録音ですが、それでもアナログテープにはこんなにも凄い音が録音されていたのかと実感させてくれるのはSACDならではの恩恵です。

LP時代のアナログ録音のCD化にはかねがね失望させられてきた者としては、エソテリックSACDの登場はまさに福音です。LPに比べ諦めかけていたCDというメディアの再生音ですが、このSACDを聴いたおかげで、SACD、CD共に、その可能性が少し信じられるようになってきました。なお、クレンペラーとモントゥーのフランク交響曲のSACDは共にハイブリッド仕様なので、CD層でもレギュラーCDよりも良好なリマスター音質で聴けることを申し添えておきたいと思います。

交響曲 クレンペラー&ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
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フランク:交響曲ニ短調 モントゥー&シカゴ響、ストラヴィンスキー『ペトルーシュカ』 モントゥー&ボストン響
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