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エガーの「ストコフスキーとの夕べ」 [クラシックCD]

エガーによるストコフスキーのトランスクリプションを集めた1枚のSACDが発売されました。エガーは古楽畑を代表するキーボード奏者兼指揮者ですが、先だっては手兵のエンシェント室内管を率いて素敵なブランデンブルクのCDを聴かせてくれました。そのエガーが意外にもモダンオーケストラを指揮して、それもオーセンティックな古楽からは最も遠いド派手なストコフスキーのバッハとバロックの編曲物を中心に指揮した「ストコフスキーとの夕べ」と題された1枚を作りました。レーベルも古楽専門レーベルのグロッサです。この1枚は正月早々のうれしい初荷のプレゼントになりました。

ジャケットのイラストは椅子にかけるストコフスキーと立っているエガーのシルエットでしょうか。デジパック仕様のアルバム装丁のジャケットは、いつもながらのグロッサらしいきれいな仕上がりです。

エガー.jpgストコフスキーのオーケストラ版バッハのトランスクリプションは、ストコフスキーご本人以外にも数多くの指揮者によって手掛けられていますが、よりによって古楽畑の指揮者が何故採り上げたのか、はなはだ興味がもたれるところです。

興味津々で早速聴いてみると、その解答が得られたような気がします。もともとピリオド奏者の人たちはモダン楽器の演奏からは得られない表現をピリオド楽器に求めているわけですから、エガーをして、通常のモダン演奏からは求められない新たな表現への興味を、悪名高い(?)ストコフスキーの編曲物に抱かせたのではないかと思われます。ストコフスキーのバッハの編曲は、モダンオーケストラの性能の限界を使っているようなところがあるので、そこがまた古楽畑のエガーが興味を惹いたところかもしれません。

冒頭のトッカータとフーガから早速聴いてみましたが、これが案の定、通常のモダンオケの指揮者によるこの曲の演奏とは一味違った仕上がりになっています。録音がグロッサらしい超ナチュラルなワンポイント的な録音なので、ストコフスキーにしては淡泊過ぎて、初めは違和感すら覚えました。そのナチュラルさはSACDなのでさらに強調されて、なお一層淡泊に聴こえます。

ところが、そのナチュラルなアコースティックに騙されることなく聴き進むと、徐々に耳も慣れてきてエガーならではの表現が聴き取れるようになってきました。他の指揮者によるこの曲の演奏は、むしろストコフスキーのあくどさをほどよく中和させようとしている場合が多いのですが、エガーはストコフスキーの手練手管を楽しみながら、その仕掛けをできるだけ丹念に拾い出そうとしているかのように聴こえます。

この1枚には上記トッカータとフーガなどストコフスキー自身による編曲物の他に、ヘンデルの「水上の音楽」からの組曲などエガー自身によるモダンオケへの編曲も含まれています。ストコフスキー版の水上の音楽はハーティ版を下敷きにしたと思われる、この指揮者としてはかなりオーソドックスで風変わりなところのない普通の編曲でした。ここで収録されているエガー版はレートリッヒ版の第2組曲(トランペット組曲)を元にモダンオケ用に編曲されたものです。わざわざエガー自身が編曲し直しただけあって、エガー自身の古楽奏法の経験がモダンオケに生かされた編曲で、ストコフスキー版よりはかなり効果的です。

というわけで、この1枚はあえてストコフスキー自身以外の編曲も含めることで、全編にわたってエガーのストコフスキーへのオマージュの思いをさらに強めています。ここでエガーが指揮しているモダンオケは、ブリュッセル・フィルハーモニックという聴き慣れない名前のオケですが、すっきりとしたきれいな音を出しています。特に前記エガー編の水上の音楽とストコフスキー編のパーセル組曲で活躍するブラスセクションは、グロッサの録音の魔力も手伝ってか、絶妙にきれいな音を聴かせています。

そして、ストコフスキーとの夕べと題されたこの1枚を締め括るのは何とチャイコフスキーの「スラヴ行進曲」です。でも何故この曲!? もちろんストコフスキーによるこの曲のステレオ録音も残されていますが、バッハとバロック物中心の選曲の最後がこの曲というのは、アンコールだとしてもあまりにも唐突です。

ところが実際に聴いてみると、これがまた、このストコフスキーに捧げられた一晩のコンサートを締め括るのに極めて効果的なエピローグになっているのです。最後をストコフスキーの編曲物にしないで、あえてこの曲を選んだのもまた、エガーのストコフスキーへのオマージュの気持ちの現れとみることができます。

インマゼールが指揮するアニマ・エテルナという名前のピリオドオーケストラは、現在はチャイコフスキーやラヴェルまでレパートリーに入れています。ラヴェルの作曲当時の20世紀初頭のオーケストラには、ピアノでいえばエラールピアノのような当時における現代とは異なるピリオド楽器が未だ存在していたいたようです。ストコフスキーがバッハの編曲を行ったのもラヴェルとほぼ同時代です。もしかしたら、そのうちインマゼール~アニマ・エテルナによるストコフスキーのバッハ編曲などというのも登場するのかもしれません。そんなありえないであろうことまで想像させてしまう、エガー版ストコフスキーでした。ああ~、やっぱり音楽って面白い!!

なおこのSACDはCDとのハイブリッド仕様ですが、最近のSACDはハイブリッドではなく、徐々にシングルレイヤー化が進行しているようです。試しにCD層の方で聴いてみましたが、グロッサらしいナチュラル感がSACDよりだいぶ減じて人工的な音質(まあ、これがCDのふつうの音質ですが)になります。あらためてSACDの実力を実感した次第です。


Evening With Leopold Stokowski

Evening With Leopold Stokowski

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Glossa
  • 発売日: 2011/01/25
  • メディア: CD




ストコフスキーとの夕べ~バッハ:トッカータとフーガ、G線上のアリア、チャイコフスキー:スラヴ行進曲、他 エガー&ブリュッセル・フィル
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