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フルトヴェングラー「田園」のSACD [クラシックCD]

フルトヴェングラーのEMIへのベートーヴェン交響曲の録音がSACD化されていますが、運命、第7のフィルアップ盤に次いで「田園」を聴いてみました。

EMIへの晩年のフルトヴェングラーによるベートーヴェンの交響曲はセッション録音に関しては、いずれも当時の水準としては極めて優秀な音質で記録されています。田園の録音も、田園には特にふさわしいウィーンフィルならではの鄙びた音が見事にとらえられた名録音です。フルトヴェングラーが現世離れしたおっとりとしたテンポでウィーンフィルを指揮した田園を聴いていると、フルトヴェングラーを聴いているのか、ベートーヴェンを聴いているのか、ウィーンフィルを聴いているのかわからなくなるほど、ウィーンフィルの音そのものに耳が集中してしまいます。こうなると、フルトヴェングラーの田園はウィーンフィルを聴くための録音ではないかとすら思われてきます。


ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」&第8番

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」&第8番

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMIミュージックジャパン
  • 発売日: 2011/01/19
  • メディア: CD


さて、運命と第7のSACDについて先に書きましたが、田園のSACD化や如何に? 初めに当ブログの本題である新リマスターの音質ではなく、ウィーンフィルならではの田園の魅力について思わず書いてしまいましたが、田園のDSDリマスタリングとSACD化もやはり運命、第7同等に、以前聴いていたartリマスターに比べ見事な音質改善効果が見られます。その改善効果は、やはり運命、第7同様にハイブリッドのCD層の方からも確認できます。

新リマスターでは、以前のartリマスター盤のベールが一枚はがされてアコースティックがリアルに蘇った印象です。運命に比べても田園はCD層での改善効果が大きいので、CDからSACDに切り替えてもさほど大きな変化はないのでははと思えるほどです。けれども、さすがにSACDに切り替えると、そこにナチュラルなしなやかさが加わるのは運命、第7同様です。というわけで、運命、第7同様に大きな改善効果が見られる今回のリマスターですが、それだけでは済まないのが今回のリマスターの凄いところです。

というのは、artリマスターではセッション録音に関しては、各曲間にそれほど大きな音質傾向の差は見られませんでしたが、今回のDSDリマスタリングでは原録音が生々しく蘇った副産物として、各録音ごとの音質の違いが明瞭に浮き彫りにされるようになりました。新リマスターでは、第7は新発見マスター使用なので音質が異なるのは当然としても、運命とこの田園も、また随分と音質傾向の異なる音に仕上がっています。

全体にふくよかな運命に比べ、田園はより最新録音に近いスリムですっきりとした見通しの良い音になりました。しかも一方では低弦の厚みが増し、高弦はしなやかになるなど、ちょい聴きにはほとんど最新録音並みです。

もう一つ気づいたことは、以前のartリマスターの音質です。確かにDSDはartに比べるとベールが一枚剥がされたようなリアルで生々しい音質なのですが、反面artではその紗がかかったような穏やかな再生音は我が家の硬調なタンノイのスピーカーではある種の独特な魅力につながっていたことがわかりました。DSDリマスタリングにより、逆にartリマスタリングのそれなりの良さを教えてもらったというところでしょうか。

タンノイでは得てして、このように旧リマスターのぼやけた音質の方が聴きやすく、新リマスターでレンジが広がるとキツく聴こえてしまうということが往々に起こります。それにしても、ベールがかかったような、という反オーディオ的特性が音の良さにつながるというのは、タンノイというスピーカーは如何にヤクザなスピーカーであることか!? それでもDSDとSACDの音質は、トータルではartを遥かに上回るものであることはこのヤクザなスピーカーでも確認できるので、まあ、良しとしましょうか。ここはひとつ、タンノイで今回のリマスターを聴いている他のリスナーの方のご意見も聞いてみたいところです。

なお田園のフィルアップはart盤と同じ音質の良くない第8のライヴ録音です。フルトヴェングラーのEMIへのベートーヴェン交響曲全集中、生前には第2と第8はセッション録音が間に合わなかったので、他から見つけ出してきたかなり状態の良くないライヴ録音で埋め合わされています。この第8は第2に比べれば、かろうじて鑑賞できるレベルの録音です。DSDのリマスタリング効果で随分と聴きやすい音になったとはいえ、それでも私にはこのレベルの録音でフルトヴェングラーを聴くのはかなりつらいものがあります。当リマスタリングプロジェクトのディレクターの見識として、今回のSACD化に際しては第2と第8の2曲は外してもよかったのではないかと思います。

交響曲第6番『田園』、第8番 フルトヴェングラー&ウィーン・フィル、ストックホルム・フィル(1952、1948)(24ビット・リマスター限定盤)
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コメント 2

tooru

初めまして。
フルトヴェングラーのウィーン・フィルとのセッション録音は、今回のSACDになって、「録音優秀だったんだ」との声を聴きます。
でも、MONOのLPやEMIリファレンスのCDあるいはartリマスターのCDでも、録音優秀、演奏も優秀であることはわかる人にはわかっていたんですよね(「録音は良いが、後のリマスターが悪い」とも)。
まあ、今回のSACDで、若い人がフルトヴェングラーを聴くにはいいと思いますが。
by tooru (2011-01-31 12:10) 

mickey

>tooruさん、ご訪問ありがとうございます。
記事中に書いたように、我が家のスピーカーではartで十分だったのでDSD~SACD化にはさほど期待していませんでした。ところが結果はその改善度の大きさにびっくりしています。久々に思いがけない素敵な贈り物をもらった気分です。今回のベートーヴェンの交響曲のSACDからは、結局他の曲もすべて購入してしまいました。
by mickey (2011-01-31 14:54) 

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