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シュワルツコップのEMIボックスセット [クラシックCD]

シュワルツコップはカラスと共に私にはもう一人の永遠のアイドルです。英EMIに残された録音のCDは既にかなりの枚数を所有していますが、この度英国EMIにより10枚組のセットにまとめられたので、超バジェット価格ということもあり、このセットを購入してみました。


Icon: Elizabeth Schwarzkopf-Radiant Soprano

Icon: Elizabeth Schwarzkopf-Radiant Soprano

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMI Classics
  • 発売日: 2011/02/28
  • メディア: CD


このセットはシュワルツコップのEMIへの全録音の中から、ほぼ作曲家別に歌曲とアリアに分けてCD10枚分の曲がピックアップされたハイライト集で、バッハ(カンタータ中心)、シューベルトの歌曲、ヴォルフの歌曲が各1枚ずつ、モーツァルトとR・シュトラウスが歌曲とアリアの両方で2枚ずつ、残りの3枚はその他の作曲家の歌曲集が1枚とアリア集が2枚(内1枚はオペレッタ)という構成です。アリアはオペラの全曲盤からの抜粋も含まれています。

CD10枚分というコンテンツはシュワルツコップがEMIに残した録音の極く一部であり、ハイライト集のメモリアルアルバムなので致し方ないとはいえ、オリジナルの歌曲集とアリア集のアルバムに入っていた多くの曲は抜け落ちてしまっています。このセットは作曲家別にこの名歌手の足跡を10枚のCDに辿れるのでシュワルツコップ入門用には適切かもしれませんが、既に他のCDを所有している者にとっては、できればオリジナルの選曲でこの機会にまとめて欲しかったところです。

EMIへのシュワルツコップの最後期の録音の中には、異なる作曲家の作品で組まれた一晩のリサイタルをまとめた「ソング・ブック」と題されたセッション録音があり、LPで数種出ていました。この形でのCDは昔、日本のEMIから発売されたことがありましたが、シュワルツコップの意図を生かす意味でも、この形でのCD復刻が望まれるところです。ところが本国の英国では今回も含めて、ついにオリジナルの形での復刻は行われませんでした。米CBSソニーでは、グールドの録音など、ジャケットも含めてオリジナルのアルバムがCD化されています。英国EMIにも、もう少しアーチストとリスナーであるファンの意思を大切にしてもらいたいところです。幸いなことに、日本のEMIの方が本国に比べればCD化に積極的で、かつオリジナルも尊重しているようです。

今回のセットでのお目当ての一つはギーゼキングが伴奏したモーツァルトの歌曲集ですが、これはハイライト版ではなくオリジナルのまま収録されています。この録音のリマスターでは、以前発売された英国EMIによるartリマスターがよい出来ではなかったので、今回のセットはart以前のリマスターに戻っているのではと、密かに期待していました。55年という最初期のステレオ録音ですが、artリマスターではノイズを取り除くお掃除が行き過ぎて、空間成分までがきれいに吸い取られてしまっています。異様に静まり返った空間の中にピアノと声だけが人工的に浮かび上がり、不満の残る結果に終わったリマスターでした。

さて今回のセットですが、何と残念ながらモーツァルトの歌曲集はartリマスターがそのまま収められていました。尤も、この録音のCD化は国内の方が先で、本国のEMIではこのartリマスターが最初のCD化であり、他のリマスターは存在しないのかもしれません。おまけに、55年という録音年代からか誤ってモノ録音という表記ミスまで見られますが、これはれっきとしたステレオ録音です。

というわけで、期待したモーツァルトの歌曲集は肩透かしを食らってしまいましたが、この録音は国内盤によるリマスターが十分よい出来なので、救われます。国内盤はartとはステレオの定位が左右逆(信じられないことですが、ステレオ録音の左右逆のリマスターは結構見られます)になっていますが、こちらにはartにはない「隠し事」のオマケが入っていますし、何よりも空間のアコースティックスのリアリティでは、人工的なartより断然こちらの方が優れています。私が所有しているのは95年製ですが、現在入手できる07年製も同じリマスター使用と思われます。

モーツァルトの歌曲集はとりあえず国内盤のリマスターが十分満足できる水準にあるのですが、今後は他社によるリマスターか、LPからのリマスター、そして本国のEMIには始まったばかりのSACD化により、さらなる音質アップを期待しておきましょう。


モーツァルト:歌曲集

モーツァルト:歌曲集

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMI MUSIC JAPAN(TO)(M)
  • 発売日: 2007/09/26
  • メディア: CD


さて、そのほかの曲はまだあまり聴いていませんが、オペラのアリアを集めた1枚の中に現在国内盤で聴けないプッチーニ「ジャンニ・スキッキ」の「お父様にお願い」が聴けるのはありがたいところです。シュワルツコップのこの曲の録音は確か後年のステレオ録音のアリア集(未CD化?)の中にもあったはずですが、ここではカラヤンとのモノ録音の方が収められています。

この曲の標準的なテンポより遥かに遅いテンポで歌われるそのネットリとした歌唱からは、麻薬的な魅惑が放射されています。これはこの曲のカラスの歌唱と並んで双璧の出来といえるのではないでしょうか。カラスの名唱とはまた異なるシュワルツコップの歌唱を聴けただけでも、このセットを購入した価値があろうというものです。

余談になりますが、何故ドラマチックのカラスでリリコのジャンニ・スキッキ? と思われるかもしれませんが、シュワルツコップとはまた異なる超絶的に巧妙なアーティキュレーションは、こんな小曲でもカラスならではのものです。ちなみに現役引退後の日本公演で(ビデオ映像が残されています)カラスはこの曲を取り上げていますが、あれほど巧妙だったアーティキュレーションは全く崩れてしまっていて無残な結果に終わっています。技巧的には決して難しくないと思われる、こんな簡単な曲でも当時のカラスにはもう歌えなかったようです。

シュワルツコップのセットに話を戻すと、ともあれこのセットはバジェット価格ということもあり、ジャンニ・スキッキのような手元にはない録音が聴けるという意義はあったようです。シューベルトやヴォルフの歌曲(ムーアとのステレオ録音ではなく、フルトヴェングラーとのモノのライヴ録音の方が収められています)は1枚ずつが割り振られていますが、シューマン、リスト、マーラー、グリーグなどのその他の作曲家の歌曲を集めた1枚があります。その多くは別の組み合わせで既に所有している曲ですが、このような形で聴くと、玉石混交ながらも、期せずしてこれはこれで楽しいアンソロジーとしての1枚になっています。

嫌う人には表情過多、暑苦しいともいわれるシュワルツコップの歌唱ですが、久しぶりにシュワルツコップを聴いてみて、だからこそ、その表現意欲の熾烈な強さには改めて頭が下がる思いでした。高音で喉を詰める昔風の発声法も、私には表現の一環に聴こえます。グリーグの「最後の春」(「過ぎた春」という誤った訳で一般化しています)など、死を前にした生前最後の春における狂おしい喜びと絶望感を、他の誰がここまで歌えるでしょうか。


エリーザベト・シュヴァルツコップ EMI録音集(10CD限定盤)
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歌曲集 シュヴァルツコップ(ソプラノ)ギーゼキング(ピアノ)、他
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