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ハーディング~新日本フィルのコンサートから 春の祭典・他 [クラシック演奏会]

ダニエル・ハーディング~新日本フィルのコンサートを聴きました。プログラムはチャイコフスキーの交響曲第4番にストラヴィンスキーの「春の祭典」のたった2曲。地元さいたま市での土曜のマチネコンサートで、2時開始で、アンコールなしできっかり午後4時には終わってしまいました。

大好きなチャイコの4番にハルサイが一緒に聴けるというのは、私にとって信じられないような破格のプログラミングです。しかも地元さいたま市の埼玉会館でのコンサートです。ハーディングだって、前から気になっていた指揮者です。これは聴きにいかずにはいられません。ヘヴィーな2曲なので、演奏時間の短さは許すとしましょう。

ハーディング.jpg私がハーディングを初めて知ったのは、ドイツカンマーフィルを指揮したヴァージン盤の何枚かのCDでした。そこに聴くハーディングは、ピリオド奏法を取り入れた先鋭な解釈を聴かせるポスト・アーノンクールとも呼べるような指揮者としての印象でした。日本の新日本フィルとはミュージックパートナーという肩書なので、セミ常任ぐらいの位置づけになるのでしょうか。この指揮者らしくヴィウラートは抑制気味とはいえ、もちろん、新日本フィルとの演奏ではピリオド奏法が取り入れられているわけではありません。

ハーディングによるドイツカンマーフィルとのブラームスの交響曲第3番と第4番のカップリング盤は鮮烈なピリオド奏法の効果も相俟って、目から鱗のように新鮮なブラームスでした。これに気を良くしてマーラー室内管とのマーラー交響曲第4番のヴァージン盤を購入してみました。ところが、これが全くの期待はずれ。すっきり整理整頓されたマーラーというのも、それはそれで新鮮に聴こえるはずなのですが、結果はマーラーの色彩的なメルヘンの魅力がものの見事にことごとく失われてしまった貧血症のような演奏にがっかりしました。マーラーの交響曲中最少の三管編成とはいえ、この曲を演奏するにはやはり室内オケでは薄いストリングス部などどうしても無理があるようです。現在の水準ではあまりに貧しい音質の、遥か大昔のメンゲルベルグのSP録音によるこの曲の演奏の方が、皮肉にも、何と色彩的に聴こえることか。ハーディングはその後、DGのようなメジャーレーベルにもマーラーを録音していますし、新日本フィルとのマーラーも名物になっていて、東日本大震災発生の当日における第5番公演は伝説として伝えられています。けれども、このヴァージン盤を聴く限り、マーラーにおけるハーディングの実力に懐疑的にならざるを得ないのですが。

さて、通常のモダンオケを指揮したハーディングの出来やいかに? しかも今回は生です。

チャイコフスキーの4番は通常の2管編成ですが、この日の新日本フィルはハルサイに併せて弦のプルトは最大規模が取られ、ホルン6本を含む3管規模に拡大されて演奏されました。5管のハルサイはさらにエキストラが加わっているのかもしれません。

ハーディングの指揮は予想に反してかなり遅めのテンポでしたが、極めてバランス感覚が整理されたすっきりしたクリーンな演奏に、この指揮者の特徴がよくわかりました。久しぶりに聴く日本のオケがここまで技術力が向上しているのも驚きでした。ハーディングが聴かせてくれる整ったバランス感覚のおかげで、チャイコフスキーのオーケストレーションの巧みさと美しさが改めて認識させられました。

チャイコフスキーのこの曲は曲そのものがしつこいほどにこってり書かれているので、こういうすっきりした指揮は解毒剤のように爽やかです。それだけに、この曲だったら、本来の2管で通した方がこの指揮者のシャープな持ち味は生きたかもしれません。

20分の休憩後にメインディッシュのハルサイです。ハーディングの指揮はハルサイでもこの曲ならではの暴力的な打楽器の強調は一切見られず、慌てず騒がずじっくりと腰を据えた丹念な仕上げに終始した演奏でした。もちろん、バーンスタインやティルソン・トーマスなど一部の指揮者が試みるフィナーレの終結でのタムタムのスリ打ちの追加というオマケ(個人的には結構これが気に入っているのですが、実際は採用している版による違いのようです)など、ハーディングが採用するはずがありません。

今日は席がS席で二階正面の前方だったので、ハーディングのオケのコントロールのバランス感覚の良さが、視覚も手伝って手に取るようにわかりました。生のコンサートでは録音で聴こえるような細部は拾いにくいのですが、席に恵まれたせいかストラヴィンスキーの想像以上に凝った細部のテクスチュアが視覚も手伝ってよくわかりました。もちろん、それを可能にしたのはハーディングの指揮の賜物なのですが。

それにしても、ここでも最近の日本のオケの技術力の進歩に目を見張らされました。オケにとって超難曲といわれたこの曲が今ではここまで、普通にこなせるようになったとは!! バスーンのトップは女性で、彼女による冒頭のソロもきれいでした。

初めて生のモダンオケとの演奏に接したハーディングですが、通常のモダンオケを指揮するハーディングは、ピリオド奏法を取り入れた室内オケとの演奏で聴かせる先鋭な方向性は影をひそめ、極めてまっとうで丁寧な整ったバランス感覚の音作りを聴かせる指揮者であることがわかりました。正直、私の好みではもう少し毒のあるカリスマ性が欲しくなるのも事実です。こういう演奏は視覚を伴わないCDでは、さらに物足りなく聴こえるかもしれまん。けれども生で聴く限り、久しぶりに聴いた日本のオケの実力の高さと、そこから見事なバランス感覚の音楽を引きだした演奏には、良質な音楽を聴けたという満足感は十分味わえました。

ハーディングのDGへのメジャーデビュー録音はマーラーの第10交響曲で、しかも相手は名門ウィーンフィルです。アーノンクールはウィーンフィルに対してもノンヴィヴラートで通していましたが、ここでのハーディングはウィーンフィルに対してノンヴィヴラートは要求していないのでしょうか。ハーディングはどうやら、通常のモダンオケを指揮する若きマエストロとして、ポスト・アーノンクールではなく、ポスト・ラトルとしての道を歩み始めたようです。個人的には、ハーディングにはモダンオケを指揮するマエストロへの道ではなく、ピリオド奏法のオケとのポスト・アーノンクールのような先鋭な演奏を極める方向を望みたいのですが。ところで、CDでのマーラーの交響曲第4番ももう一度聴き直してみることにしましょう。


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