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アンデルジェフスキのベートーヴェン 6つのバガテル作品126 [クラシックCD]

今、気になるピアニストの一人、アンデルジェフスキの新盤ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番を聴きました。この曲のCDではベートーヴェンの他のピアノ協奏曲をもう1曲カップリングするというのが普通ですが、ここでのフィルアップは6つのバガテルという、全体で60分に満たない、この人らしいわがままなプログラム。演奏はメインの協奏曲よりも、おまけのバガテルの方が、私には断然面白く聴けました。この6つのバガテルは冒頭の3曲を、来日公演のアンコールで実演で接しています。改めてCDで聴き直してみても、本当にきれいに良く弾けていると思われます。

アンデルジェフスキ1.jpgBeethoven: Bagatelles, Op. 126; Piano Concerto No. 1
  • アーティスト: Ludwig van Beethoven,Piotr Anderszewski,Bremen German Chamber Philharmonic
  • 出版社/メーカー: Virgin Classics
  • 発売日: 2008/04/01
  • メディア: CD

晩年のベートーヴェンのピアノ曲は、ハンマークラヴィーア・ソナタやディアベリ変奏曲のように、全体としては極めて巨大で長大に作られている作品がある一方で、後期のソナタの中にはほんの数分間という瞬く間に燃え尽きてしまうミニアチュールのような楽章も含まれています。このように晩年のベートーヴェンのピアノ曲には、マクロとミクロという対照的な世界が共存しているという特徴を見ることができます。この6つのバガテルも一曲一曲は数分しかかからない小曲ながら、そのミニアチュールの中に晩年のベートーヴェン特有の独創性が万華鏡のように多彩に展開されています。来日公演ではメインプログラムのディアベリ変奏曲のエピローグのように、アンコールでこの曲を取り上げていましたが、ディアベリ変奏曲の一つ一つの変奏よりも、曲自体の美しさと面白さでは、このバガテル集の一曲一曲の方がはるかに勝っているのではないかと思われます。

アンデルジェフスキの演奏は、ベートーヴェンがこのミニアチュールの中に封じ込めたミクロの世界を、まるでマクロレンズで覗くかのようにマクロに拡大して見せてくれます。他のピアニストでこの曲を聴くと、ここまでミクロな細部は聴こえてきませんので、これはまさにアンデルジェフスキならではの才能の賜物といえるでしょう。

さて、メインディッシュの協奏曲です。ここでアンデルジェフスキが指揮も兼ねているオーケストラはドイツ・カンマーフィルですが、ハーディングに育てられたオーケストラだけに、ピリオド楽器の奏法が取り入れられていて、ヴィヴラートも抑制されていてます。特にピリオドスタイルのバチを使用したかとも思われるティンパニが衝撃的で、協奏曲としては珍しくティンパニパートが活躍するこの曲では、それが極めて効果的です。

アンデルジェフスキのピアノは、独奏同様、たいへんに細やかで繊細で、随所にこの人ならではのハッとさせるような美しさを感じさせてくれます。ただ、それが独奏の時ほどの強い説得力にまでは至らないのが残念なところです。この人のピアノはモーツァルトもそうですが、協奏曲になると、その良さの幾分かが失われてしまうような気がします。これだけ繊細な弾き方だと、協奏曲のピアノパートにはその持ち味の全てが現時点では未だ反映されないのかもしれません。本当に優れたピアニストは協奏曲でも満足させてくれますので、まだ若いアンデルジェフスキにはもう少し先の将来を期待しておきましょう。

このベートーヴェンの第1ピアノ協奏曲には、グールドのピアノによる宝物のような一枚が幸いにも残されています。この曲は幸か不幸か初めにグールドで聴いてしまっていたので、アンデルジェフスキの彫心鏤骨の演奏をもってしても、私にはグールドの強烈な印象が塗り替えられなかったのかもしれません。このグールドのCDはオリジナルLPと同じバッハのチェンバロ(ピアノ)協奏曲第5番とのカップリングです。

グールド・B.jpgベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番/バッハ:ピアノ協奏曲第5番
  • アーティスト: グールド(グレン),バッハ,ベートーヴェン,ゴルシュマン(ウラジミール),コロンビア交響楽団
  • 出版社/メーカー: ソニーレコード
  • 発売日: 1997/10/01
  • メディア: CD

この演奏はグールドの魔法のように自在なピアノがチャーミングで、カデンツァも全て自作に改変されています。颯爽と速いテンポで駆け抜ける第一楽章など、何とアンデルジェフスキよりも演奏時間は6分も短くなっています。もっとも、アンデルジェフスキはそれだけで5分ほどもかかるベートーヴェン自作の中でも最長のカデンツァを使っていますが、このアンデルジェフスキのカデンツァが始まる時にグールドの演奏時間では、第一楽章全体がほぼ終わってしまっているというタイミングになります。競演のゴルシュマン指揮のオーケストラがまた素晴らしく、50年代終末という未だピリオド楽器の演奏が定着していなかった録音時点において、この曲のティンパニを、ピリオド楽器による演奏のように前面に押し出したのには頭が下がります。オブリガートのように独奏的に活躍する第2楽章のクラリネットの生かし方も最高で、ティンパニ共々指揮者の勘の良さがうかがえます。


タグ:クラシック
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