オーマンディのバッハ・トランスクリプション [クラシックCD]
前の記事でオーマンディの『ファンタジア』を取り上げましたが、この中のバッハ「トッカータとフーガ」が聴けるということで、オーマンディの『バッハ・トランスクリプション』のCDを購入してみました。ストコフスキーの編曲でお馴染みの「トッカートとフーガ ニ短調」「パッサカリア」「小フーガ」など、バッハの鍵盤作品のオーケストラへの編曲作品(トランスクリプション)を集めた一枚です。
バッハ・トランスクリプション
オーマンディ~フィラデルフィア管弦楽団
BMG BVCC38048
ディズニーの音楽アニメ映画『ファンタジア』の冒頭に置かれていたのはバッハの「トッカータとフーガ」のストコフスキー・バージョンによるフィラデルフィア管弦楽団とのストコフスキー自身の演奏でした。フィラデルフィア管を指揮したストコフスキーのトッカータとフーガは、このオーケストラの華麗なサウンドを極限まで生かしきった忘れられない演奏ですが、現在ではSP録音からの複刻をCDで聴くことができます。その後ステレオ時代に入ってからはストコフスキー自身のトッカータとフーガは3種ほど録音されていますが、残念ながらフィラデルフィア管とのこの曲のステレオ録音は残されませんでした。ストコフスキーの死後は、他の指揮者によるストコフスキーバージョンのこの曲の録音は結構数多く出ていますが、フィラデルフィア管によるステレオ録音はこのオーマンディ盤ぐらいしかなく、その意味でこの盤は貴重な録音と言えます。
オーマンディによるこの曲の演奏はオーマンディ編曲になっていますが、併録の「パッサカリア」共々、少々の違いはあるものの、その実体は明らかにストコフスキーバージョンが下敷きになっています。ライナーノートに書かれているように、ストコフスキー在世当時の録音なので、版権の関係からかオーマンディは自分のバージョンとして演奏しなければならなかったようです。従って聴き手としてはほぼ同じストコフスキーバージョンを、ストコフスキー自身の演奏とオーマンディの演奏とで聴き比べられる楽しみができることになります。
その後、何とあのサヴァリッシュがフィラデルフィア管の常任指揮者に就任し、バッハ以外の作品も含むストコフスキーのトランスクリプションを取り上げた録音を残していて、その中にもこの曲が入っています。
ストコフスキー・トランスクリプションズ
サヴァリッシュ~フィラデルフィア管弦楽団
東芝EMI TOCE13368
そもそも、この華麗な音が特徴のオーケストラの常任に何故、あの石部金吉のサヴァリッシュが指名されたのかが全く不可解なほど、サヴァリッシュとフィラデルフィアとのコンビには、かなりミスマッチではないかという観を抱かされていました。その上さらに、華麗で金ピカのストコフスキーの編曲を取り上げたというのは信じがたいことですが、このオーケストラ由縁の指揮者に敬意を表したということなのでしょうか。出来は、案の定、ストコフスキーの毒気がきれいに洗い流されてサラサラと清浄化されたサヴァリッシュらしい演奏に仕上がっています。他の指揮者によるストコフスキーの編曲演奏と比べてみても、この人らしい誠実さが裏目に出ており、やはり謹厳実直なサヴァリッシュと金ピカのストコフスキーは水と油だったようです。
今回久しぶりに聴き直してみましたが、これだけ客観的に演奏してもらうと、改めてストコフスキーの編曲の面白さを味わうことができました。ストコフスキーを飛び越えて、もう一度バッハ戻って、どこかドイツ的な響きが聴かれるのもサヴァリッシュならではと思われます。その代わり、名前を伏せられて聴いたら、このオケはせいぜいフィルハーモニアかどこかのイギリスのオケで、フィラデルフィアだとは絶対に思われません。この盤では、ストコフスキーがオーケストレーションしたチャイコフスキーの歌曲「舞踏会のざわめきの中で」が収められていますが、この曲を歌っているゲスト出演のリポヴシェクの歌唱がたいへん感動的で、この盤でしか聴けない貴重な演奏になっていることを付け加えておきたいと思います。
そこへいくと、このオーマンディとフィラデルフィア盤は、敬愛する評論家の宇野功芳氏が『ストコフスキー時代と少しも変わらない華麗さを持ちながらも、もっと現代風で、よりストレートな演奏』と評されているように、未だ黄金時代のストコフスキー~フィラデルフィア・マジックの残り香が感じられる演奏になっています。
オーマンディ~フィラデルフィアのステレオ録音は当初CBSで録音されていましたが(上記の『ファンタジア』もその一枚)、そのほとんどはCD化されておらず、現在CDで入手できるのはその後のRCA時代になってからの録音です。バッハのトランスクリプションもCBS時代の録音がありましたが、これはもちろんRCAになってからの再録音盤です。オーマンディのバッハトランスクリプションのRCAへの録音はLP2枚分残されたようで、その2枚分がCD1枚に収録されています。録音も予想よりもはるかに上質で、久しぶりにフィラデルフィアのゴージャスな金ピカサウンドがたっぷりと堪能できた一枚になりました。
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