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ヘンデルの合奏協奏曲 作品6 [クラシックCD]

2009年はヘンデル没後250周年ということで、昨年末から既にいくつかの記念盤が発売されています。その1枚、イル・ジャルディーノ・アルモニコの作品6の12の合奏協奏曲の新譜を聴きました。作品6の合奏協奏曲集は私にとってはアーノンクール盤がベストですが、あのイル・ジャルディーノ・アルモニコがこの曲を録音したというので、早速聴いてみました。新年早々のお年玉といったところで、今年最初の聴きものになりました。

アルモニコ.jpgイル・ジャルディーノ・アルモニコは、衝撃的なヴィヴァルディの「四季」で一躍有名になりましたが、単に奇を衒った演奏であるという評価と、革新的な新しさが表現されているという評価に分かれたようです。私は後者の意見であり、とにかく、あの聴き慣れた「四季」にこんなに面白い表現がまだ可能だったのかと、その演奏の大胆な新鮮さに驚かされました。その生を聴くべく、来日公演にも出かけました。

実際に生で接したこの楽団は全くCDの印象そのままのはじけた演奏ぶりに逆に安心させられました。楽員たちが一団となって踊り狂うように演奏するさまは、クラシック音楽の合奏団というよりはサーカスの集団を見ているようでした。このヘンデルのジャケット写真も、そう思って見るとサーカス団の移動風景のようにも見えます。

バロック当時には、多分こうした曲芸のような弾き方をする楽団が存在していたのかもしれません。けれどもその曲芸を通して、ビシっと1本筋の通った高度な音楽性が伝わってきます。ピリオド楽器の演奏も今やここまで来たのかという驚きと同時に、それを実際に体験できたという、この時代に生まれたことの幸せをかみしめさせられた来日公演でした。そう言えば、アーノンクールもかつてはその「四季」が前衛的な演奏であると評判になりました。そのまた10数年後、ピリオド楽器の演奏はここまで進化を遂げているのです。

このイル・ジャルディーノ・アルモニコがヘンデルの作品6を録音したとなったら、これは聴かずには済まされません。結果は、予想通りサーヴィス満点のヘンデルでした。リピエノの合奏用の通奏低音はチェンバロとオルガンが交代で当たるほか、コンチェルティーノの独奏楽器群の通奏低音用にはアーチリュートにトリプルハープ、そしてリピエノ用とは別にコンチェルティーノ専用のチェンバロまでがにぎやかに動員されています。リピエノにはヘンデル自身がアドリブと指定しているオーボエとファゴットも当然加えられています(オーボエは指定通り1、2、5、6番のみ)。

テンポが速いと思われるこの団体の演奏にしては、何故か全12曲がCD3枚にもわたって収録されているのを疑問に思っていました。結果は、予想よりも遅い通常のテンポが取られていることと、いくつかの楽章の終わりには、動員されている数種の通奏低音楽器、オーボエ、ソロヴァイオリン各々によるかなり長いカデンツァの即興演奏が随時挿入されているので、2枚には収まり切らなかったようです。

予想通り、これだけやってくれれば文句のつけようのない演奏ですが、英デッカ伝統のデッカらしいエッジの効いた今時では珍しい超オンマイクの録音(レーベルはデッカの古楽レーベルのオワゾリール)も含めて、少々饒舌に感じられる部分もあります。私にはアーノンクール盤がやはりベストであり、イル・ジャルディーノ・アルモニコをもってしても、その牙城は崩せませんでした。

マンゼ.jpgアーノンクールの後から出た盤に、バロックヴァイオリンの旗手マンゼがヴァイオリンと指揮を受け持ったエンシェント室内管弦楽団の演奏のものがあります。これは速めのテンポでキリリとまとめた演奏で、全12曲がCD2枚に収まっています。

通奏低音はリピエノとコンチェルティーノ共通にチェンバロとアーチリュート各々1台のみ、アドリブのオーボエとファゴットも加えられていないという、ある意味でバロックらしからぬ禁欲的な演奏です。速めのテンポでサラサラと軽快に進められる、すっきり爽やかな今風の演奏になっています。

弦楽器だけで進められる、このすっきりとした演奏を支持する人も多いと思われます。曲そのものを味わう上では、このすっきりとした演奏が時には耳に心地よく響きます。ただ、バロック特有の劇性を秘めたヘンデルの音楽は、こんなにも無駄が無く禁欲的な音楽なのでしょうか。リピエノの第1、第2ヴァイオリンのそれぞれにユニゾンで加わるオーボエパートは、たとえアドリブと指定されていても加えるのが普通になっている今日、それに聴き慣れてしまった耳には第6番などオーボエが無いのが、何とも物足りなく感じられてしまいます。

アーノンクール.jpg私にとっては依然本命のアーノンクール盤です。新しいイル・ジャルディーノ・アルモニコ盤を聴いて、改めてアーノンクールの読みの深さを認識させられました。現在では同じヘンデルの作品3の6曲の合奏協奏曲と一緒に4枚組で出ています(演奏も同じアーノンクール)。

ヘンデル時代にも行われていたというイル・ジャルディーノ・アルモニコ盤に採用されているコンチェルティーノとリピエノで別々に通奏低音楽器を採用するという方法も、アーノンクール盤が先です。アーノンクール盤ではまた、ヘンデルが指定した1、2、5、6番以外の曲にもリピエノにオーボエを採用しており、通常はオーボエが入らない第12番でも、リピエノのオーボエがソロにまで参加します(リピエノのオーボエ2本とファゴットが部分的にコンチェルティーノの役割を担当するやり方はジャルディーノ・アルモニコも採用)。また、一部の曲ではヴァイオリンとチェロのコンチェルティーノをリピエノから遠ざけて置いていますが、これがさながら遠くから返って来るエコーのように聴こえて効果的です。

作品6の中では第6番と第12番が白眉と思われますが、アーノンクールの演奏もこの2曲がベストです。第6番はリピエノとコンチェルティーノ間のエコー効果をともなった遠近感のある受け渡しが曲の古雅な悲しみの情をさらに増幅させています。ミュゼットの土臭さを強調したドローンバスも効果的です。第12番は第2楽章の木枯らしが吹きすさぶかのようなアレグロ、きっぱりと意志的なフィナーレなど、いつ聴いても引きこまれます。

テルデックの録音は私のタンノイでは少々キツく聴こえますが、これでもデッカの最新録音のジャルディーノ・アルモニコ盤の超オンマイク録音に比べれば、おとなしい方かもしれません。少なくともデッカ盤ほどオンマイクの録音ではありません。デジタル録音になってからはマイクは遠くても録音できるようになったせいか、ホールトーンを生かしたオフマイクの録音が徐々に増えてきたのを歓迎していたのですが、イル・ジャルディーノ・アルモニコ盤の旧態依然としたオンマイク録音には少々期待を殺がれた観が残りました。

作品6の第6番は、ヴェンツィンガー~バーゼル・スコラ・カントールム合奏団によるLPの名演奏が忘れられません。この合奏団は当時には珍しくガット弦のピリオド楽器を用いていましたが、現在のようなノンヴィヴラート奏法ではなく、適度にヴィヴラートも残している、現在から見ればモダンとピリオドとのいわば折衷的な演奏法が採用されていました。モダンからピリオドへと移り変わる過度的な時期にはピリオド楽器を使いながらもこうした折衷的な演奏をする団体は、他にもコレギウム・アウレウム合奏団などいくつか見受けられました。スコラ・カントールム合奏団もノンヴィヴラートではないその奏法により、逆にガット弦のふっくらとした響きが生かされ、第6番においては他では代え難い独特な古雅な味わいを出していました。

ヴェンツィンガー~バーゼル・スコラ・カントールムのヘンデルの作品6のCDは一度だけ全12曲から何曲かを抜き出した抜粋盤が出たことがありますが、その中に第6番は含まれていませんでした。ヘンデル没後250年のこの機会に是非、全曲がCD化されないものでしょうか。






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