シュワルツコップ モーツァルト歌曲集のミステリー [クラシックCD]
シュワルツコップのモーツァルト歌曲集はLP時代にさんざんお世話になった愛聴盤の一枚です。1955年の録音ながら、最初期のステレオ録音になっています。シュワルツコップのご主人でこの録音のプロデューサーを務めているウォルター・レッグは大のステレオ録音嫌いだったはずですから、55年という時点でステレオ録音されていたということは、エンジニアのクリストファー・パーカーがレッグに内緒で行ったものと思われます。
この録音はLP時代には当初モノーラルで発売され、その後ステレオ盤で出たようです。現在CD化されているものは、当然ステレオ録音が使われています。
この録音は何故か、全16曲版と17曲版が存在するというミステリーを抱えています。その違いは「かくしごと」K.518一曲が入っているか、いないかの違いです。これは国内盤の東芝盤では入っているのですが、何故かEMI本国のUKのCD盤には入っていません。これはLP時代にも同様に見られた現象です。考えられることは、何らかの事情で本国のマスターテープからはこの曲が抜け落ちてしまい(あるいは意図的に外されたのか?)、一方、日本に送られたコピーのテープには残されていたということかもしれません。もちろん、現役の日本盤CDにもこの曲が収録されています。
現在出ている本国の16曲版によるUK盤はart仕様のリマスタリングが施され、シュワルツコップがセルのロンドン響と競演した同じモーツァルトのコンサート・アリア集4曲がフィルアップされています。この16曲版によるUKのart盤は17曲版と一部曲順の違いが見られます。また、artの16曲版は左にピアノ、右に歌唱という配置ですが、17曲による国内盤は歌唱が左で、ピアノが右という、何故か逆の配置になっています。art仕様のCDは日本でも発売されたことがありますが、現在の国内盤は17曲版でコンサート・アリアは含まない国内リマスター仕様の方が採用されているようです。
artの16曲版は左のピアノと右の歌唱が明確にセパレートされていますが、国内盤の17曲版では左の歌唱と右のピアノがより近接して並んでいます。このように異なる定位のマスターが存在しているということ自体、最初期のステレオ録音らしい実験性を物語っています。
さらにミステリーは続きます。日本盤でかつてシュワルツコップのモーツァルトを2枚組にしたCDが発売されたことがあります。この1枚目は国内盤なのにart版と同じ曲順の16曲版が採用され、しかもコンサート・アリアもフィルアップされているので、art盤と同じマスターテープが使われていると思われます。左にピアノ、右に歌唱という配置もart同様ですが、ミステリーなのが、最後の15曲目と16曲目でそれまで左にいたピアノが右に移動してしまうことです。同じマスターテープを使ったと思われるその後のart盤のリマスタリングに際しては、もちろん定位は元に戻されています。
art仕様の16曲版はギーゼキングのピアノにフィルハーモニア管楽アンサンブルが競演したモーツァルトの五重奏曲をフィルアップしたUK盤も出ています。五重奏曲はホルンにデニス・ブレインが参加していることからも評判になった録音です。
なおartのリマスターについてですが、これは私には疑問が残ります。というのは、テープヒス等のノイズ成分をきれいにクリーンアップし過ぎたお陰で、ノイズと共に空間のアコースティックまでが取り除かれてしまっているからです。歌唱とピアノのみが切り抜かれたように、背景のない真空地帯の中から浮かび上がって聴こえてきます。これはスクラッチノイズを取り除き過ぎた、良くないSP盤の複刻の例を思わせますが、モノーラルや初期のステレオ録音でここまで掃除してしまったというのは珍しい事例といえます。他のartリマスタリングはどれもが概して良好な仕上がりなので、このリマスタリングに限って出来が芳しくないのは残念です。個人的にはこれはもう、聴き比べるまでもなく、圧倒的にリアリティに優れた国内盤の方に軍配を挙げたいところです。もちろんart盤は、歌唱とピアノの音質そのものはノイズ成分が無くなった分、それだけ鮮明に聴こえるので、こちらの方を高く評価する人もいるのでしょうが。
個人的には16曲版、17曲版ともに、この録音に関してはartではない国内盤のリマスターの方に軍配を挙げたいところです。17曲版は国内リマスターですが、2枚組の国内盤の16曲版のリマスターはUK本国かもしれません。共にartよりも自然なリマスターですが、特に後者は最後で定位が変わるという欠陥は見られるものの、これがシュワルツコップの歌唱とギーゼキングのピアノに関しては、一番生々しく自然に再生されます。このリマスターが一番テープヒスの残存が多いので、それを取り除いていない分、生々しさが残されたのかもしれません。
この録音の後、数多くのモーツァルト歌曲集の録音が世に送り出されてきました。それらの中からアメリンク、マティス、白井光子、ヘンドリックスそしてボニーなどの歌唱によるものを所有していますが、硬質なギーゼキングの伴奏に艶やかなシュワルツコップの歌唱が絶妙にマッチしたこの演奏をしのぐ演奏には未だに出会っていません。
左から国内盤、artのUK盤、artによる五重奏とのフィルアップのUK盤
歌曲集 シュヴァルツコップ(ソプラノ)ギーゼキング(ピアノ)、他
Songs, Concert Arias: Schwarzkopf, Gieseking, Szell / Lso
Lieder: Schwarzkopf(S)Gieseking(P)+piano Quintet: Po Wind Ensemble
この録音はLP時代には当初モノーラルで発売され、その後ステレオ盤で出たようです。現在CD化されているものは、当然ステレオ録音が使われています。
この録音は何故か、全16曲版と17曲版が存在するというミステリーを抱えています。その違いは「かくしごと」K.518一曲が入っているか、いないかの違いです。これは国内盤の東芝盤では入っているのですが、何故かEMI本国のUKのCD盤には入っていません。これはLP時代にも同様に見られた現象です。考えられることは、何らかの事情で本国のマスターテープからはこの曲が抜け落ちてしまい(あるいは意図的に外されたのか?)、一方、日本に送られたコピーのテープには残されていたということかもしれません。もちろん、現役の日本盤CDにもこの曲が収録されています。
現在出ている本国の16曲版によるUK盤はart仕様のリマスタリングが施され、シュワルツコップがセルのロンドン響と競演した同じモーツァルトのコンサート・アリア集4曲がフィルアップされています。この16曲版によるUKのart盤は17曲版と一部曲順の違いが見られます。また、artの16曲版は左にピアノ、右に歌唱という配置ですが、17曲による国内盤は歌唱が左で、ピアノが右という、何故か逆の配置になっています。art仕様のCDは日本でも発売されたことがありますが、現在の国内盤は17曲版でコンサート・アリアは含まない国内リマスター仕様の方が採用されているようです。
artの16曲版は左のピアノと右の歌唱が明確にセパレートされていますが、国内盤の17曲版では左の歌唱と右のピアノがより近接して並んでいます。このように異なる定位のマスターが存在しているということ自体、最初期のステレオ録音らしい実験性を物語っています。
さらにミステリーは続きます。日本盤でかつてシュワルツコップのモーツァルトを2枚組にしたCDが発売されたことがあります。この1枚目は国内盤なのにart版と同じ曲順の16曲版が採用され、しかもコンサート・アリアもフィルアップされているので、art盤と同じマスターテープが使われていると思われます。左にピアノ、右に歌唱という配置もart同様ですが、ミステリーなのが、最後の15曲目と16曲目でそれまで左にいたピアノが右に移動してしまうことです。同じマスターテープを使ったと思われるその後のart盤のリマスタリングに際しては、もちろん定位は元に戻されています。
art仕様の16曲版はギーゼキングのピアノにフィルハーモニア管楽アンサンブルが競演したモーツァルトの五重奏曲をフィルアップしたUK盤も出ています。五重奏曲はホルンにデニス・ブレインが参加していることからも評判になった録音です。
なおartのリマスターについてですが、これは私には疑問が残ります。というのは、テープヒス等のノイズ成分をきれいにクリーンアップし過ぎたお陰で、ノイズと共に空間のアコースティックまでが取り除かれてしまっているからです。歌唱とピアノのみが切り抜かれたように、背景のない真空地帯の中から浮かび上がって聴こえてきます。これはスクラッチノイズを取り除き過ぎた、良くないSP盤の複刻の例を思わせますが、モノーラルや初期のステレオ録音でここまで掃除してしまったというのは珍しい事例といえます。他のartリマスタリングはどれもが概して良好な仕上がりなので、このリマスタリングに限って出来が芳しくないのは残念です。個人的にはこれはもう、聴き比べるまでもなく、圧倒的にリアリティに優れた国内盤の方に軍配を挙げたいところです。もちろんart盤は、歌唱とピアノの音質そのものはノイズ成分が無くなった分、それだけ鮮明に聴こえるので、こちらの方を高く評価する人もいるのでしょうが。
個人的には16曲版、17曲版ともに、この録音に関してはartではない国内盤のリマスターの方に軍配を挙げたいところです。17曲版は国内リマスターですが、2枚組の国内盤の16曲版のリマスターはUK本国かもしれません。共にartよりも自然なリマスターですが、特に後者は最後で定位が変わるという欠陥は見られるものの、これがシュワルツコップの歌唱とギーゼキングのピアノに関しては、一番生々しく自然に再生されます。このリマスターが一番テープヒスの残存が多いので、それを取り除いていない分、生々しさが残されたのかもしれません。
この録音の後、数多くのモーツァルト歌曲集の録音が世に送り出されてきました。それらの中からアメリンク、マティス、白井光子、ヘンドリックスそしてボニーなどの歌唱によるものを所有していますが、硬質なギーゼキングの伴奏に艶やかなシュワルツコップの歌唱が絶妙にマッチしたこの演奏をしのぐ演奏には未だに出会っていません。
左から国内盤、artのUK盤、artによる五重奏とのフィルアップのUK盤
歌曲集 シュヴァルツコップ(ソプラノ)ギーゼキング(ピアノ)、他
Songs, Concert Arias: Schwarzkopf, Gieseking, Szell / Lso
Lieder: Schwarzkopf(S)Gieseking(P)+piano Quintet: Po Wind Ensemble
2009-11-03 23:46
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