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モーツァルトの春への憧れの聴き比べ [クラシックCD]

先のブログでシュワルツコップのモーツァルト歌曲集について書いたので、他の歌手のモーツァルトも聴いてみたくなりました。そこで何種類か所有している他の歌手によるCDの中から、モーツァルトの歌曲の中でも最も美しいと思われる「春への憧れ」を選んで聴き比べてみました。

モーツァルト晩年に書かれた「春への憧れ」は、歌曲というよりは子供のための童謡という方がふさわしい曲です。この可愛らしい天国的なメロディーは、最後のピアノ協奏曲第27番のフィナーレのロンド主題に転用されています。

マティス.jpg聴き比べの初めはまず、マティスから。マティスはこの録音以前にも夫君のクレーとモーツァルトの歌曲集を録音しています。このノヴァーリス盤はその約10年後の再録音になりますが、現在は廃盤のようです。こちらのピアノはカール・エンゲルです。

まず第一印象として、聴き慣れたシュワルツコップに比べ、とにかく「きれい」な声なのにはびっくりしました。マティスの声はリリコですが、少し暗めのリリコの声がチャーミングです。試しに以前のクレーとの録音も聴いてみました。やはり若いマティスは、声も歌唱もノヴァーリス盤よりずっとストレートで、ノヴァーリス盤では歌唱の陰影が濃くなっているのがわかります。それでもシュワルツコップに比べれば、ずっと薄味でプレーンな歌唱です。

ただどちらも、とにかく声そのものはシュワルツコップより「きれい」です。マティスのあのチャーミングな容姿そのままの「きれい」で「可愛らしい」声です。我々が思い浮かべるこの曲イメージには、最もふさわしい声ではないでしょうか。この歌唱は出来がどうのこうのという以前に、この曲がこの声で歌われているという幸せな事実の価値の高さに尽きます。

ヘンドリックス.jpg次に聴いたのはヘンドリックスです。薄味でプレーンで、きれいと書いたマティスの印象がこのヘンドリックスにもそのまま当てはまってしまうので、これでは聴き比べにならないかもしれません。ヘンドリックスの声質はマティスより、さらに軽いリリコ・レジェロになるのでしょうか。その軽さに、黒人独特の紗がかかったようなヴィヴラートが交じるヘンドリックスの声もまた、とにかくチャーミングです。同じような声質の黒人のもう一人のソプラノ、バトルと良く似ていますが、ヘンドリックスの声質はバトルよりももう少しプレーンでヴィヴラートもより少ないようです。

このヘンドリックス盤ではピアノのピリスがこれまた、たいへんチャーミングな伴奏を聴かせてくれています。このピリスのピアノ共々、これはまさにメルヘンの一篇のような「春への憧れ」になっています。

ボニー.jpg次はボニー盤です。ピアノはジョフリー・パーソンズです。ボニーもこれまた、薄味でプレーンで、きれいという印象に尽きる歌唱です。ボニーの声質も軽いリリコですが、この3人の中では一番ヴィヴラートが少なく、ボーイソプラノのようにピュアな声です。この声で「春への憧れ」が歌われてしまったら、もう他には何もいらないと思えるほど、至福の満足感が残ります。

マティス、ヘンドリックス、ボニーと聴いてきて、改めてシュワルツコップの声は独特のものだったと認識させられました。シュワルツコップからは聴かれない「きれい」な声でこの曲が歌われるというのは、それだけでも幸せな体験になるようです

白井.jpgこれも現在は廃盤のようですが、次は日本人の白井光子さんが夫君のハルトムート・ヘルのピアノと共演した盤です。白井さんはソプラノで出発したようですが、この録音時にはメゾソプラノになっています。メゾといっても、官能的なメゾの声ではなく、ソプラノよりも音域が低いというだけで、声質は癖のないきれいなソプラノの声です。

白井さんの声は多くの日本人の声楽家に特有の作られたベルカントの発声が見られません。素直な声でプレーンに歌われているということでは、前者の3人に共通するのですが、そこにメゾらしい落ち着き感も加わって、これはこれでチャーミングな「春への憧れ」になっています。その歌唱からは、この曲本来の可愛らしさというよりも、転用されたピアノ協奏曲のロンドの方に聴かれる夕映えのような雰囲気が感じられます。

シュワ4A.jpg最後に聴き慣れたシュワルツコップです。シュワルツコップはこの曲を彼女としては若やいだ子供らしい声で歌っています。こうした歌唱を作り物として嫌う人も多いようですが、私にはシュワルツコップの歌唱からは「解釈」というよりは、「共感」や「直感」の方が強く感じられます。この人はどのような曲の中にも、彼女の強烈な直感でとらえた世界を濃密に封じ込めて展開していきます。結果、それぞれの曲に一番ふさわしい声質が注入されることになります。

ここで聴き比べた他の人たちの歌唱もシュワルツコップに比べれば、その歌唱が独自の世界を持っていると言うよりは、まだ譜面をどう歌うのかという段階に止まっているように聴こえてしまいます。

他の4人に比べてこの曲でもシュワルツコップの声そのものは決して「きれい」とは言えないのですが、その歌唱には夕映に火照ったような独特なまばゆい眩惑が感じられ、他の誰よりも「美しい」とすら感じさせます。硬質なギーゼキングのピアノ伴奏も、この曲では天国から響いてくるオルゴールのように聴こえます。




Lieder: Mathis(S), Engel(P) icon

歌曲集 マティス(S)プライ(Br)クレー(p) icon

Lieder: Hendricks(S)Pires(P)Sollscher(G)+aria: Eichenholz / Lausanne Co icon

春への憧れ~モーツァルト:歌曲集 / ボニー icon

歌曲集 シュヴァルツコップ(ソプラノ)ギーゼキング(ピアノ)、他 icon


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