ストコフスキーのRCAステレオ録音 [クラシックCD]
ディズニーアニメ「ファンタジア」ですっかり虜になって以来、ストコフスキーは私にとっての永遠のアイドルです。ストコフスキーのステレオ録音はLP時代には英デッカへの録音中心に聴いていましたが、CDで聴き直してみてもストコフスキーのステレオ録音の最盛期は英デッカ時代にピークがあったことがわかります。RCAへのステレオ録音はLP時代もさほど多くは聴いていなかったのですが、今回あらためてまとめて聴くことができました。
ストコフスキーのRCA時代のステレオ録音の集成は同じ構成で一度発売されたことがあるそうですが、今回は全14枚セットがわずかレギュラー盤一枚ほどのはバジェットプライスでの再発で、解説ブックレットは付きません。ストコフスキーのRCAへのステレオ録音は英デッカに録音する前の60年代前半と英デッカの後の70年代前半の二つの時期に分かれますが、この14枚はほぼその両時期の録音が半々といった割合で収められています。収録曲中のワーグナーの管弦楽曲集はこの両時期にまたがっていますが、本全集では同じCDに収録されています。
あらためてRCA時代のストコフスキーを聴いてみると、断然60年代前半の方が面白く聴けました。70年代前半の方の録音は英デッカ録音の後になるので、ストコフスキーとしてはセカンドチョイスともいえるレパートリーが多いせいかもしれません。音質的にも60年代前半の録音の方がむしろ精彩があります。60年代前半のステレオ初期のRCA録音は当時のハイファイ録音をリードしていたものですが、70年代に入ってからの録音は当時の他社録音に比べても特徴に乏しくなってくるのがCDで聴き直してみても顕著にわかります。
その後半録音分にはベートーヴェン「英雄」、チャイコフスキー「悲愴」、ブラームスの4番、マーラー「復活」などの交響曲が収められていますが、これらはストコフスキーとしても案外まともな演奏で、部分的におやっと思わせるアゴーギグはあるものの、この指揮者に期待される予想外の踏み外しを聴くことはできません。同時期のドヴォルザークの「新世界より」はストコフスキーがSP以来何回もレコーディングに取り上げた曲で、終楽章のシンバルの追加(ドヴォルザーク自身のアドリブ指定の一箇所以外にも追加あり)など相変わらずですが、これも以前の録音に比べて特に面白くなっていると思える演奏ではありません。
後期分の中で今回聴いて面白かったのは皮肉にも英デッカに録音のあったバッハのトランスクリプション集とR・コルサコフの「シェエラザード」(こちらもストコフスキーによるオーケストレーションの改変あり)の再録です。バッハは十八番のトッカータとフーガ(生涯数回にわたりレコーディングしているストコフスキーのこの曲の最後の録音で、本全集ではこの曲のみ14枚目のリハーサル集に収録)以外は英デッカ盤と曲のダブリはありません。シャコンヌはブゾーニのピアノ編曲版にも匹敵するオドロオドロしいストコフスキーの面目躍如としたスペクタクルな編曲で、ステレオ録音で聴けるのはこの録音だけなので貴重です。最後の最後でストコフスキーらしいドッキリ仕掛けのオマケが付きます。シェエラザードは曲の解釈もオケの改変も英デッカ盤とほとんど変わっていないのに、左右の分離を強調した英デッカのフェイズ4とは対照的な標準的なコンサートホールプレゼンスのRCA録音で聴くと、また違った印象の演奏に聴こえるのは面白いと思いました。この印象はトッカータとフーガを英デッカ盤と比較しても感じられることです。
前半分はショスタコーヴィチの第6交響曲と「黄金時代」組曲などのように、CDで聴くのが初めてという演奏も含まれていましたが、こちらはどれもがストコフスキーらしい面白さが堪能できました。アンナ・モッフォとの共演盤(「オーベルニュの歌」抜粋、「ブラジル風のバッハ第5番」他)など長らく単独盤のCDがなかったので貴重です。ハーティ版ではない独自の編曲による「水上の音楽」と「王宮の花火の音楽」(花火は最後に花火の打ち上げ音が入ります)は、極めてオーソドックスな2管編成のモダンオケ用に編曲されたハーティ版に比べると、ストコフスキー版は意外にも現在のピリオド演奏の方に近い響きが聴かれます。また、54年録音のメノッティ「セバスチャン」組曲、プロコフィエフ「ロメオとジュリエット」組曲など、この時期に既にステレオ録音だったことに驚かされます。ロメジュリは現在演奏されている組曲版ともまた異なる選曲で「騎士たちの踊り」や「ティボルトの死」などは入っておらず、二人のラヴシーンと死の場面中心に構成されていて、ストコフスキーの好みの一端を伺わせます。
ストコフスキーのステレオ録音は本命の英デッカ録音もボックスセットにまとめられていますし、RCAのさらに前の50年代終末から60年代初期の米キャピトル録音も集成されています。英デッカ録音は二組に分かれていますが、廉価仕様ですし、キャピトル盤はバジェットプライスです。そこに加わったRCA録音ですが、その前半分は聴きどころが多く、後半分にもバッハとシェエラザードという英デッカ盤とはまた一味異なる面白い演奏が含まれています。これでレギュラー盤一枚という価格は喜ぶべきことなのですが、この円高の一助もあってのLP時代には考えられなかった再発CDの安さには、何やら今という時代性が持つ面妖な時代背景を感じてしまいます。
ストコフスキーRCAステレオ・コレクション(14CD)
レオポルド・ストコフスキー キャピトル録音集(10CD)
レオポルド・ストコフスキー/デッカ・レコーディングス1965-1972(5CD)
追記:
この記事を書いていてふと気づいたのがストコフスキーのステレオ録音で唯一、集成されていないCBS録音の存在です。ストコフスキーのCBSへのステレオ録音は他レーベルへの録音とは異なり単発的に行われていたので、それほど多くの量ではないと思われます。
と、思っていた矢先、ついにCBSへのステレオ録音がバジェットプライスで集成されることになりました。予告告知ではLP1枚分がCD1枚にオリジナル通りに復刻され、計10枚セットになるということですが、CBSへの録音がLP10枚分もあったというのは予想外でした。これら10枚の内容はストコフスキーとしては、そのほとんどがこの指揮者の傍系のレパートリーなだけに、LPでもほとんど聴いていないものばかりです。それだけにCDであらためてまとめて聴けるようになるというのは、新たな興味の持たれるところです。
ストコフスキーのRCA時代のステレオ録音の集成は同じ構成で一度発売されたことがあるそうですが、今回は全14枚セットがわずかレギュラー盤一枚ほどのはバジェットプライスでの再発で、解説ブックレットは付きません。ストコフスキーのRCAへのステレオ録音は英デッカに録音する前の60年代前半と英デッカの後の70年代前半の二つの時期に分かれますが、この14枚はほぼその両時期の録音が半々といった割合で収められています。収録曲中のワーグナーの管弦楽曲集はこの両時期にまたがっていますが、本全集では同じCDに収録されています。
Leopold Stokowski: The Stereo Collection 1954-1975
- アーティスト:
- 出版社/メーカー: RCA Victor Europe
- 発売日: 2012/02/21
- メディア: CD
あらためてRCA時代のストコフスキーを聴いてみると、断然60年代前半の方が面白く聴けました。70年代前半の方の録音は英デッカ録音の後になるので、ストコフスキーとしてはセカンドチョイスともいえるレパートリーが多いせいかもしれません。音質的にも60年代前半の録音の方がむしろ精彩があります。60年代前半のステレオ初期のRCA録音は当時のハイファイ録音をリードしていたものですが、70年代に入ってからの録音は当時の他社録音に比べても特徴に乏しくなってくるのがCDで聴き直してみても顕著にわかります。
その後半録音分にはベートーヴェン「英雄」、チャイコフスキー「悲愴」、ブラームスの4番、マーラー「復活」などの交響曲が収められていますが、これらはストコフスキーとしても案外まともな演奏で、部分的におやっと思わせるアゴーギグはあるものの、この指揮者に期待される予想外の踏み外しを聴くことはできません。同時期のドヴォルザークの「新世界より」はストコフスキーがSP以来何回もレコーディングに取り上げた曲で、終楽章のシンバルの追加(ドヴォルザーク自身のアドリブ指定の一箇所以外にも追加あり)など相変わらずですが、これも以前の録音に比べて特に面白くなっていると思える演奏ではありません。
後期分の中で今回聴いて面白かったのは皮肉にも英デッカに録音のあったバッハのトランスクリプション集とR・コルサコフの「シェエラザード」(こちらもストコフスキーによるオーケストレーションの改変あり)の再録です。バッハは十八番のトッカータとフーガ(生涯数回にわたりレコーディングしているストコフスキーのこの曲の最後の録音で、本全集ではこの曲のみ14枚目のリハーサル集に収録)以外は英デッカ盤と曲のダブリはありません。シャコンヌはブゾーニのピアノ編曲版にも匹敵するオドロオドロしいストコフスキーの面目躍如としたスペクタクルな編曲で、ステレオ録音で聴けるのはこの録音だけなので貴重です。最後の最後でストコフスキーらしいドッキリ仕掛けのオマケが付きます。シェエラザードは曲の解釈もオケの改変も英デッカ盤とほとんど変わっていないのに、左右の分離を強調した英デッカのフェイズ4とは対照的な標準的なコンサートホールプレゼンスのRCA録音で聴くと、また違った印象の演奏に聴こえるのは面白いと思いました。この印象はトッカータとフーガを英デッカ盤と比較しても感じられることです。
前半分はショスタコーヴィチの第6交響曲と「黄金時代」組曲などのように、CDで聴くのが初めてという演奏も含まれていましたが、こちらはどれもがストコフスキーらしい面白さが堪能できました。アンナ・モッフォとの共演盤(「オーベルニュの歌」抜粋、「ブラジル風のバッハ第5番」他)など長らく単独盤のCDがなかったので貴重です。ハーティ版ではない独自の編曲による「水上の音楽」と「王宮の花火の音楽」(花火は最後に花火の打ち上げ音が入ります)は、極めてオーソドックスな2管編成のモダンオケ用に編曲されたハーティ版に比べると、ストコフスキー版は意外にも現在のピリオド演奏の方に近い響きが聴かれます。また、54年録音のメノッティ「セバスチャン」組曲、プロコフィエフ「ロメオとジュリエット」組曲など、この時期に既にステレオ録音だったことに驚かされます。ロメジュリは現在演奏されている組曲版ともまた異なる選曲で「騎士たちの踊り」や「ティボルトの死」などは入っておらず、二人のラヴシーンと死の場面中心に構成されていて、ストコフスキーの好みの一端を伺わせます。
ストコフスキーのステレオ録音は本命の英デッカ録音もボックスセットにまとめられていますし、RCAのさらに前の50年代終末から60年代初期の米キャピトル録音も集成されています。英デッカ録音は二組に分かれていますが、廉価仕様ですし、キャピトル盤はバジェットプライスです。そこに加わったRCA録音ですが、その前半分は聴きどころが多く、後半分にもバッハとシェエラザードという英デッカ盤とはまた一味異なる面白い演奏が含まれています。これでレギュラー盤一枚という価格は喜ぶべきことなのですが、この円高の一助もあってのLP時代には考えられなかった再発CDの安さには、何やら今という時代性が持つ面妖な時代背景を感じてしまいます。
- アーティスト: Alexander Scriabin,Claude Debussy,César Franck,Edward Elgar,Franz Schubert,Fryderyk Franciszek Chopin,Hector Berlioz,Henri Duparc,Igor Stravinsky,Jeremiah Clarke,Johann Sebastian Bach,Maurice Ravel,Olivier Messiaen,Pyotr Il'yich Tchaikovsky,Sergey Rachmaninov,William Byrd,Leopold Stokowski,Hilversum Radio Philharmonic Orchestra
- 出版社/メーカー: Decca
- 発売日: 2003/11/25
- メディア: CD
- アーティスト: Helen Watts,Donald McIntyre,Alexander Porfir'yevich Borodin,Franz Schubert,Johannes Brahms,Ludwig van Beethoven,Modest Petrovich Mussorgsky,Nikolay Andreyevich Rimsky-Korsakov,Pyotr Il'yich Tchaikovsky,Richard Wagner,Leopold Stokowski,New Philharmonia Orchestra,Grenadier Guards Band,Heather Harper,Alexander Young,London Symphony Chorus
- 出版社/メーカー: Decca
- 発売日: 2005/02/08
- メディア: CD
ストコフスキーRCAステレオ・コレクション(14CD)
レオポルド・ストコフスキー キャピトル録音集(10CD)
レオポルド・ストコフスキー/デッカ・レコーディングス1965-1972(5CD)
追記:
この記事を書いていてふと気づいたのがストコフスキーのステレオ録音で唯一、集成されていないCBS録音の存在です。ストコフスキーのCBSへのステレオ録音は他レーベルへの録音とは異なり単発的に行われていたので、それほど多くの量ではないと思われます。
と、思っていた矢先、ついにCBSへのステレオ録音がバジェットプライスで集成されることになりました。予告告知ではLP1枚分がCD1枚にオリジナル通りに復刻され、計10枚セットになるということですが、CBSへの録音がLP10枚分もあったというのは予想外でした。これら10枚の内容はストコフスキーとしては、そのほとんどがこの指揮者の傍系のレパートリーなだけに、LPでもほとんど聴いていないものばかりです。それだけにCDであらためてまとめて聴けるようになるというのは、新たな興味の持たれるところです。
タグ:ストコフスキー
2012-06-14 21:48
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ご訪問いただき有難うございます
by セイミー (2012-07-27 19:43)