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イヴァン・フィッシャー 春の祭典のSACD [クラシックCD]

東京が猛暑の中、ロンドン五輪が始まりましたが、猛暑というとなぜかストラヴィンスキーの「春の祭典」が聴きたくなります。猛暑も吹き飛ばしてくれるような強烈なサウンドを期待してのことでしょうか。

今回聴いたのはイヴァン・フィッシャー~ブダペスト祝祭管のSACDです。ハルサイマニアの一人としてはかねてから気になっていた一枚ですが、手持ちのハルサイのSACDとしてはサロネン~ロスフィル盤に続いて二枚目になります。

サロネン~ロスフィル盤のSACDは現在出ている非圧縮、シングルレイヤー仕様ではなく、先に出ていたハイブリッド盤の方で聴いていました。これはウォルト・ディズニー・コンサートホールの広大なアコースティックの捉えられたホールトーンのきれいな録音で、CDにはないSACDの実力を十分に堪能できる優秀録音でした(シングルレイヤー盤ではそれがさらにきれいに聴こえるのかしら?)。

フィッシャー盤はスタンダードなハイブリッド仕様です。さて、フィッシャー盤や如何に?


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Rite of Spring/Firebird Suite/Scherzo/Tango

Rite of Spring/Firebird Suite/Scherzo/Tango

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Channel Classics Nl
  • 発売日: 2012/02/14
  • メディア: CD



初めはこわごわ併録の「火の鳥」の19年版組曲から聴いてみました。19年版組曲は現在では火の鳥で最も多く演奏されるヴァージョンですが、オリジナルの4管が2管編成に縮小されているだけでなく、要領よくまとまりすぎているがために、オリジナルのファンタジーが薄められてしまっているかのように聴こえてしまい、ふだんあまり食指が動かない曲です。その代り、「カスチェイ王の魔の踊り」のトロンボーンのグリッサンドというオリジナルにはないオマケの楽しみがあるのですが。

さて、この火の鳥が思いのほか、面白く聴けました。フィッシャーの演奏では平準化されてしまったと思っていた各曲にオリジナルの繊細なオーケストレーションとファンタジーの魅惑が生きているではありませんか。それはSACDの優れた録音の効果も手伝ってのことなのかもしれませんが、これならハルサイも期待できるぞ、という展開です。

さて本命のハルサイです。冒頭のファゴットの最高音による出だしから、十分に味が濃く満足させられます。つまらない演奏だと、まずここで何事もなかったかのようにオーケストラパートの中の一部が始まって次に移っていってしまいます。名高い不協和音によるリズムが連打される「春の兆し」も迫力十分。火の鳥の印象から推察すると、もう少し繊細な演奏かと思っていたのに、こちらは迫力十分。フィッシャーはそれだけ楽曲の要求する楽想に的確に反応しているということでしょう。

家庭で楽しむ再生音楽ではダイナミックレンジが広すぎる録音では、この曲の冒頭のファゴットソロのような弱音部の箇所では、音量が小さくなりすぎて音が痩せて聴こえてしまいます。そこへいくと、この録音のDレンジは家庭で楽しめるレベルに抑えられているせいか、弱音部が痩せて聴こえないところに好感が持てます。

デジタル録音になってからはコンサートホールプレゼンスを生かしたワンポイント的な録音が多くなってきましたが、この録音は木管のソロが結構クローズアップされて距離感が近かったり、近年の録音には珍しくマルチマイク的に再生音リアリズムが追及された録リ方です。同じSACDでも、コンサートホールプレゼンスを活かしたサロネン盤とまさに対照的な録リ方です。こういう少し強調感のある最新録音をSACDで聴くのはもしかしたら初めての体験であり、それはそれで独特な生々しさを伴うスリリングな面白さがありました。

興味深かったのはこの曲で多用される打楽器のティンパニ、大太鼓のドラム群の音です。モダンオケだから当然プラスチック製の皮なのでしょうが、この録音に聴く深い音は昔ながらの本革製の音のように聴こえます。私の好みでは、プラスチックの音がしてもいいから、もう少し抜けのいいカラッとした軽い太鼓の音が好きなのですが、この録音のように重い音をしっかりと捉えた太鼓の音も、その意味で見事です。

私はハルサイを生のコンサートでも三回ほど聴いています。そのうちの一度はシャイー~コンセルトヘボウという最高の顔合わせでした。シャイーのハルサイは確かクリーヴランド管とのレコーディングがあるはずですが、その生をサントリーホールで聴いた印象では、コンセルトヘボウを振ったせいか、あまりに渋い地味な響きにガッカリさせられました。生で聴くハルサイって、こんなにも物足りないものなのだろうか? という失望の残った演奏でした。コンセルトヘボウのハルサイといえば、その蒼古なサウンドを逆手に取ったデイヴィスの録音(私にとってのベスト・ハルサイの一つ)はそれなりに十分面白いのですが。

私の音楽体験が生よりも再生音楽による方が圧倒的に多いせいかもしれませんが、それにしてもハルサイは生で聴くよりも再生音で聴いた方が断然面白い曲だと思うのですが。フィッシャー盤は久しぶりに聴く新しいレコーディングによるハルサイになりましたが、その感をあらためて強められた好演、好録音でした。


『春の祭典』、『火の鳥』組曲、ロシア風スケルツォ、タンゴ I.フィッシャー&ブダペスト祝祭管弦楽団
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