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クナッパーツブッシュ「ウィーンの休日」の板起し [クラシックCD]

クナッパーツブッシュ~ウィーンフィルによる英デッカへのステレオ録音に「ウィーンの休日」と題してウインナ・ワルツやポルカを中心にアンコールピースで組まれた一枚がありました。この中の一曲、コムザークのワルツ「バーデン娘」など、宇野功芳氏をして「悪魔の哄笑」と言わしめたように、クナッパーツブッシュならではの桁外れの名人芸が聴ける一枚でした。私は「アンネン・ポルカ」冒頭のテーマの、あの気が遠くなるように超絶的なポルタメントを交えたアーティキュレーションとアゴーギグのうまさに痺れたものでした。この一枚は昔キングから出ていたCDを所有していましたが、今は手元になく、現役盤も単独では入手できない状況です。

クナッパーツブッシュ~ウィーンフィルではもう一枚「ポピュラー・コンサート」と題して、「舞踏への勧誘」や「くるみ割り人形」組曲などで構成されたポピュラーな名曲を集めたステレオ録音があります。そちらの方は「ウィーンの休日」とは異なり、度々復刻されてきました。ところが「ウィーンの休日」の方は英国本国はおろか、往年の英デッカレーベルのほとんどを復刻しているオーストラリアのエロクアンスレーベルからも、何故か未だに復刻されていません。数年前、日本でクナッパーツブッシュの英デッカ録音がSHM-CD仕様で全集化された際には含まれていたようですが、残念ながらこのセットには手が届かなかった私にとっては、単独でのCDの再発が待望されるところです。

そんな折、往年のLPからの復刻をリリースしているスイスのギルド・レーベルから「ウィーンの休日」の一部が復刻されました。この一枚は板起しと呼ばれるLPからの復刻で、復刻者としてピーター・レイノルズの名前が記載されています。この復刻は「ポピュラー・コンサート」が中心で「ウィーンの休日」からは数曲がオマケのようにフィルアップされています。「ポピュラー・コンサート」はマスターテープからの復刻盤で所有しているので、肝心の「ウィーンの休日」の方を一枚に復刻してもらいたかったところなのですが。

クナ.jpg『ポピュラー・コンサート』 クナッパーツブッシュ&ウィーン・フィル(レイノルズ復刻)icon          
「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲、「くるみ割リ人形」組曲、「舞踏への勧誘」、「軍隊行進曲」、「バーデン娘」、「アンネン・ポルカ」、「ウィーンの森の物語」、「ラデツキー行進曲」






「ポピュラー・コンサート」からの収録曲は手持ちのマスターテープからの復刻盤と比較できるので、その比較が興味深いところです。結果はこのLPからの復刻の音は中域は厚く、高域は丸く聴こえるので、同じ曲でもマスターテープからの復刻とはまるで別の録音のように聴こえますが、これはこれで聴きやすい音です。ステレオ最初期の57年録音の「ウィーンの休日」は当時の英デッカらしいハイ上がりの音質でしたが、60年録音の「ポピュラー・コンサート」の方はわずか3年違いなのに、帯域バランスは見違えるように現在の水準に近く改善が見られます。「ポピュラー・コンサート」に関しては、元来がまともなバランスの録音だっただけに、やはりマスターテープからの復刻の方に一日の長があるようです。ただ、「ウィーンの休日」は数曲だけであっても、他に単独のCDがないので貴重です。

「ウィーンの休日」には実はそれだけで板起ししたLPからの復刻CDが別にあります。平林直哉氏復刻のグランド・スラム盤ですが、残念ながらこちらは早、現在は廃盤のようです。

クナ2.jpgクナッパーツブッシュ~ウィーンフィル ウィーンの休日










同じLPからの板起こしといっても、「ウィーンの休日」からの同じ曲をギルド盤と比較してみると全く違った音がしているのに驚かされます。アナログLPはそれを再生するピックアップのカートリッジによっても音質が変わってしまうわけですから、復刻にあたっても、どういうカートリッジを使用するかで音質はガラッと変わってしまうのかもしれません。

グランド・スラム盤はギルド盤よりハイ上がりの音質なのですが、こちらの方がLPらしい音に聴こえます。ステレオ最初期57年頃の英デッカの録音は現在の水準で聴くと、イコライザーの設定を間違えたかと思われるようなハイ上がりで中域が薄いシャカシャカした音に聴こえます。CDではその傾向がさらに強調されて聴こえるのですが、アナログのLPで聴くと、そのしゃくれ上がった高域が、また得も言われぬ独特のデッカサウンドの味わいとして聴こえます。LPから板起こししたグランド・スラムの復刻は見事にその音を捉えていて、懐かしくなります。LP盤の針音もしっかり再生されます。

このグランド・スラム盤とギルド盤を比べると、ギルド盤は針音も除去されており、LP盤というよりはオープンリールのミュージックテープから復刻されたかのように聴こえます。それだけにグランド・スラム盤より中域が厚く、高弦はより滑らかに聴こえるので、別の復刻盤としての存在意義は認められるのですが。

グランド・スラム盤では一部の曲のみ当時のモノラルLPからの同じ曲が比較できるようになっています。この57年録音の水準ではLPであれば、音が集中して聴こえるモノラルの方に分があるのかもしれませんが、CDで聴く限りは、一概にステレオよりモノラルの方が勝るともいえないところが微妙です。

グランド・スラム盤は昔懐かしいLPのデッカサウンドが聴けるので、「ウィーンの休日」をCDで聴く上ではそれも大いなる楽しみなのですが、欲を言えば今一度マスターテープから起したCDでも聴いてみたいものです。それもDSDリマスタリングで。

『ポピュラー・コンサート』 クナッパーツブッシュ&ウィーン・フィル(レイノルズ復刻)
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追記:

この記事を書いた後、何とグランド・スラムから「ウィーンの休日」のオープンリールのミュージックテープからの復刻盤が発売されることを、ネットのCDショップの予告で知りました。同じグランド・スラム同志でのLPからの復刻との比較だけでなく、LPから起していながらテープみたいな音質のギルド盤との比較が楽しみです。ということは、やはり発売されたら即、購入してしまいそうです。
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