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シェリングのスペイン、中南米リサイタル [クラシックCD]

シェリングの昔懐かしいスペイン、中南米音楽のリサイタル盤がタワーレコードのオリジナル企画からリリースされました。このオリジナルLPは所有していませんでしたが、CDはオリジナルジャケットが再現されているので、昔レコード店で見たジャケットを懐かしく思い出しました。オリジナルのフィリップスのレーベルが今ではユニバーサルに統合されたので、ジャケット右上のマークがデッカに代わっているのが、今という時代を感じさせます。

.jpgシェリング スペイン、中南米リサイタル 
ファリャ/スペイン舞曲第一番、サラサーテ/アンダルシアのロマンス、サパテアード、バレ/かがり火のほとりで、ポンセ/短いソナタ・他 クロード・マイヨール(ピアノ)







シェリングは正直、私にとってかけがえのないヴァイオリニストではありませんでした。私にとってのシェリングは、ちょうどピアニストでいうとアシュケナージに良く似たタイプのアーチストで、若い時はその線の細い端麗な演奏にフレッシュな魅力が感じられましたが、大成した後はその完璧なヴィルトゥーゾスタイルに完成され過ぎた物足りなさを感じてしまっていました。それは職人タイプのアーチストが歳を重ねて自分だけの世界をさらに堅固に構築していくのとは異なり、全ての要素に万遍なく目配りされていることによる平準化の物足りなさと言えるものかもしれません。何でもあるということは、何もないということと同じ物足りなさが感じられるものです。

若いときにその端正な美貌で知られたハンサムな二枚目俳優が歳を重ねて名優として成長し、世間から高い評価を浴びるようになったものの、若き日の美貌は失われてしまったのと、どこか似ています。

完璧で無駄のないシェリングの演奏は、そうした行き方だったらヴァイオリンではなくてもいいのでは? 、 とふと思ってしまう瞬間もありました。今回、シェリングを久しぶりに聴き直してみてその印象が払拭されたわけではありませんが、ヴァイオリニストとしてのシェリングの歌い口の美しさを、むしろ意外なほどに再認識させられました。指揮者に転じたアシュケナージとは異なり、生涯ヴァイオリニストで通したシェリングのヴァイオリンからは、それはそれでピュアなヴァイオリン本来の無理のない美しさを聴きとることができました。どうして、どうして大成してからのシェリングは、その浸透的な美音は失われていなかったことがわかりました。

今回このリサイタル盤を購入した最大の理由は、シェリングでサラサーテの「アンダルシアのロマンス」と「サパテアード」が聴いてみたかったからです。共にスペイン舞曲集にまとめられている魅力的なこれら2曲は、意外にも一緒に聴けるリサイタル盤は多くありません。やはりタワレコからリリースされたシュヴァルベのリサイタル盤(QIAG-50081)も、偶然この2曲が収録されていました。シュヴァルベ盤は先にこのブログで取り上げています。

http://fantasia.blog.so-net.ne.jp/2012-04-04

ライナーノートに書かれているようにシェリングのここでの演奏はスペイン音楽に期待される扇情的な「こぶし」は聴かれません。むしろそれを意識的に排除しているのではないかとすら思われます。にもかかわらず、ここに聴けるサラサーテはシェリングならではのユニークなサラサーテたりえています。

このサラサーテの2曲をシュヴァルベと聴き比べてみました。結果は何とソリストというよりコンマスとして知られていたシュヴァルベの方が職人的なこぶしを効かせていて、ソリストのシェリングの方がよりストレートな演奏です。先のブログではシュヴァルベはコンマスらしいすっきりした演奏という感想を書きましたが、何とそのシュヴァルベですらシェリングに比べれば、随分と職人的なこぶしを随所に効かせています。どちらがいいというのではなく、こぶしを排除しているのにもかかわらずシェリングの弾き方の方が結果的にはシュヴァルベより濃厚に聴こえるのは面白いと思います。

その強く緊張した潔癖な歌い口こそ、まさにシェリング節ともいえるものであり、それはサラサーテの他にもこの盤に収められた他のスペインや中南米音楽のどの曲からも聴くことができます。残念ながらこのリサイタル盤に収められているスペイン音楽以外の、シェリングの第二の故郷に由来するというメキシコを含む中南米音楽は聴き慣れない曲が多いせいか、正直、これでなければという強い魅力は感じられません。一愛好家としては、できればスペイン音楽で通して欲しかったというのも本音です。けれども、頭に収められたスペイン音楽から中南米音楽へと続けて聴くと、そこに共通するシェリングの熱い火照りが伝わってきます。

このリサイタル盤は70年のアナログ録音ながら、ハイビットリマスターにより伴奏のピアノともども、信じられないほどのみずみずしい音で再現されます。LPで親しんだ人にとってはCDならではの物足りなさは残るかもしれませんが、CDから入った私にとっては予想外のいい音でした。久しぶりに、いいヴァイオリンが聴けました。

Henryk Szeryng/スペイン, 中南米リサイタル [PROC-1239] 

Michel Schwalbe/ヴァイオリン小品集 - ラヴェル: 「ツイガーヌ」; バルトーク: 「ルーマニア民族舞曲」, 他<タワーレコード限定> [QIAG-50081]


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