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クリュイタンスの「交響曲へのお誘い」 [クラシックCD]

クリュイタンスの「交響曲へのお誘い」は以前このブログでも取り上げましたが、廃盤になっていたこの音源が、この度タワーレコードのオリジナル企画から復刻リリースされました。

「交響曲へのお誘い」は有名交響曲の中から一つの楽章だけを抜き出して集めたオムニバス盤で、贅沢なことに、クリュイタンスがウィーンフィルを指揮した演奏で収められています。収録されているのはベートーヴェンが運命の第1楽章と第8の第2楽章、モーツァルトが40番とアイネクライネナハトムジークの共に第1楽章、チャイコフスキーが4番と悲愴の共に第3楽章、それにメンデルゾーン「イタリア」の第4楽章、ドヴォルザーク「新世界より」の第2楽章となっています。この選曲はクリュイタンスによるものなのか、EMIが行ったのか不明です。1958年というステレオ初期のEMI録音で、なぜ当時EMIがこのようなオムニバス盤を制作したのか、その意図は不明ですが、初期のステレオ録音のデモンストレーション盤のつもりだったのでしょうか。

この録音は宇野功芳氏が絶賛しておられたもので、クリュイタンスを決して高く評価していなかった氏がこの録音を聴くに及んで、そのエレガントで音楽的な演奏によって、すっかりクリュイタンスへの評価が変わったという、いわくつきの名盤です。


クリュイタンス-2.jpg私が所有していたのはフランスEMI盤で、CD化されていないEMIのレアな録音をリリースする「レ・ラリシム」と題するシリーズの一枚でした。

この仏EMI盤は現在は廃盤ですが、ここに来てCD化されていない貴重な音源を次々にCD化してくれている日本のタワーレコードのオリジナル企画のエクセレントシリーズから、思いがけなくもこの録音が復活しました。フランス盤は他のクリュイタンスの録音も含む2枚組でしたが、タワレコ盤は「交響曲へのお誘い」にリストのレ・プレリュード(こちらはベルリンフィルとの演奏)をフィルアップして1枚に収めています。フランス盤のリマスターも十分良好な出来でしたが、英国EMIでデジタルリマスターされたという本盤も聴いてみたく、早速購入してみました。

クリュイタンス.jpg「交響曲へのお誘い」/リスト「前奏曲」  クリュイタンス~ウィーンフィル、ベルリンフィル(前奏曲)  タワーレコードQIAG50092










ステレオ録音に遅れをとったEMIの録音は、正直58年当時の他社録音に比べても乾いた音質で、ウィーンフィルの美音が十全に捉えられている水準にあるとは言えません。その範囲内で仏EMI盤のリマスターは聴きやすい音にまとめられていましたが、今回のリマスターはさらに瑞々しい音にブラッシュアップされ、少しだけウィーンフィルらしさも増したかのように聴こえます。ホールトーンもより明瞭に聴こえるようになりました。

私にとってのクリュイタンスは、同世代のカラヤンを思い出させます。この録音当時のカラヤンは速めのテンポを取ることが多く、ポストトスカニーニに喩えられていましたが、クリュイタンスは中庸かおっとりとしたテンポが多いので、ポストフルトヴェングラーといった趣がありました。その外観は異なるものの、スタイリッシュで純音楽的な音楽作りをするということではクリュイタンスとカラヤンは共通項がありました。

有名交響曲から1楽章分だけを抜き出して集めたこのオムニバス盤だからこそ、そうしたクリュイタンスの音楽作りがよくわかります。

今あらためてクリュイタンスを聴いてみると、現代の指揮者の演奏に比べて、戦後のノイエザッハリッヒカイトが定着した当時の演奏は随分と客観的で、スコアの改変を含む指揮者側の自己主張は、一聴では物足りないほどに抑えられていたことがわかります。けれどもよく聴けば、その中にもクリュイタンスならではの極く微妙な味付けが効いていて、ウィーンフィルから純良なエレガンスの香りが導きだされています。

今の指揮者は再び戦前に戻ったかのように、濃厚な自己表現を聴かせるようになってきました。今の時代では聴けなくなったこういうすっきりとしてスタイリッシュな演奏を聴くと、逆にそこに時代を感じさせられると同時に、現代の演奏からは聴かれないピュアな佇まいの凜とした美しさを感じ取ることができました。

私にとってのクリュイタンスはどこか冷たい印象が優先する指揮者で、決して大好きな指揮者ではなかったのですが、こうしてあらためて聴いてみると、そこにこそクリュイタンスならではの美しさが存在するのがわかるようになってきました。今の時代には失われてしまったこの時代ならではの謙譲の美徳を懐かしむと同時に、それを楽しめた一枚になりました。時代が変わると、昔の演奏がまた別の新鮮さで聴けるようになるものです。

このクリュイタンスの演奏を聴いていて、ふと、クリュイタンスは先般亡くなった後輩世代の大指揮者サヴァリッシュに似たタイプの指揮者ではなかったかと思われました。


http://tower.jp/item/3218731/交響曲へのお誘い-(ベートーヴェン:-「運命」第1楽章,-他,-全9曲;-リスト:-前奏曲)<タワーレコード限定>
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