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根津美術館の燕子花図屏風展 [絵画]

東京青山にある根津美術館の尾形光琳の国宝「燕子花図屏風」(かきつばたずびょうぶ)の特別展を見ました。燕子花図屏風は同館所蔵ですが、国宝なので常時展示は無く、今回も4年ぶりの公開ということです。


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今回は燕子花図屏風を中心に尾形光琳の他の作品や他の琳派の画家たちの作品も見られるという貴重な展示会です。平日の午前中にもかかわらず、15分待ちということで、果たして燕子花図屏風は人だかりを気にせず見られるのか不安になりました。

根津美術館のエントランスはキンメイチクと玉砂利のプロムナードで導かれます。


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やっと中に入ると、燕子花図屏風は鑑賞に差し支えない程度の混み方でホッとしました。昨年の国立博物館の大琳派展はもの凄い人出で、やっと中に入れてもお目当ての俵屋宗達の「風神雷神図屏風」は黒山の人だかりでほとんど見ることができませんでした。せっかく入場制限で待っているのですから、せめて入ってからは鑑賞できるぐらいの人数に主催元は気を配ってもらいたいものです。今回の燕子花図屏風展示は入場制限しなくても入れるほどの人出でしたが、入場制限してくれたお陰で、まともに見ることができたようです。

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初めて実物を見る燕子花図屏風。ウーム、さすがに凄い!! 燕子花の屏風と言えば、通常は流水模様か八つ橋が共に描かれるのでしょうが、この屏風はとにかく、ただただ燕子花の花、花のみ。この時代の日本の画家にこんなに思い切った構成力が表現できたというのは驚異的です。左隻の群落に対して右隻の群落を少し上げて描いているバランス感覚も見事。

よく見ると同じパターンが画面中に繰り返して描かれていて、それが心地よいリズム感を生んでいます。これは捺染のステンシル(型抜き)の技法が応用されているということです。

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光琳は後に燕子花の中に八つ橋を付け加えた「八橋図屏風」(メトロポリタン美術館・蔵)を残していますが、出来は燕子花図屏風の方がはるかに上回るのではないでしょうか。

根津美術館はその庭園の美しさでも知られています。今は新緑が目にまぶしい季節です。


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燕子花図屏風の展示に合わせるかのように、庭園内の池では燕子花の花が咲いていました。


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燕子花の花はそろそろ終わりにさしかかっていましたが、開花の時期に合わせて燕子花図屏風を展示するという粋な計らいです。


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没後400年の長谷川等伯展 [絵画]

没後400年記念の長谷川等伯展は、等伯の生涯を通じてのほぼ全ての作品が展示されるという、おそらく一生に一度だけの貴重な展示会になりました。

ネットで調べたら、平日にもかかわらず110分待ちと出ていたので、待つのが苦手な私としては、一度は見るのをあきらめましたが、思い切って9時半の開館少し前に行ってみたところ、幸い30分待ちで入場できました。展示最終週のウィークデーの木曜日でした。

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仏画師として出発した等伯はその後、肖像画や黄金の障壁画、水墨画と、様々に異なるジャンルの絵画を残しました。「絵師の正体を見た。」というこの展示会のサブタイトルにあるように、今回の展示に際しては、それらの作品が、ほぼ制作年代順にジャンルごとにまとめて見られるようになっています。

この時代の日本の画家には未だ自身の個性は意識されていなかったとはいえ、それぞれ異なる作風の作品から等伯のアイデンティティを感じ取るのは不可能です。

これは展示会のチラシから取った障壁画の傑作「楓図壁貼付」です。水墨画の代表作「松林図屏風」で知っていた等伯ですので、こんな華麗な障壁画を同じ画家が残していたこと自体、昔は知りませんでした。

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代表作として知られる「松林図屏風」です。この写真もチラシの裏から取っています。この作品は本展の主催元の東京国立博物館が所蔵していますが、国宝なので常時公開はされていません。2年ほど前に期間限定で公開されたことがあり、その折りに一度見ているので、見るのは今回が二度目になります。

この絵は下絵であると言われていますが、それを屏風に仕立てているということは、等伯自身がこれはこれで立派に完成された作品であると認識していたのかもしれません。

数々のジャンルの絵画を手がけた等伯ですが、晩年にたどり着いた境地が簡素な水墨画の世界だったようです。「松林図屏風」はそれ以前の作品と言われており、確かに晩年の水墨画とも異なる独自の幽玄な抽象美を見せています。

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一見アイデンティティが感じられないほどに、様々に異なる作風の作品を残した等伯ですが、その画業の生涯を通してたどってみると、そこには一貫した等伯の意志が貫かれていることがわかりました。それを実感できた、良い展示会でした。

この後開催予定の京都展にオッカケで行ってみようかという気分です。


大淋派展の風神雷神図 [絵画]

大淋派展に行ってきました。

お目当ては当然、『風神雷神図屏風』です。17世紀の初頭、江戸時代の初期という昔の日本で、まるで現代のアニメかコミックを思わせるかのように大胆にデフォルメされたキャラクターが、俵屋宗達の手により生み出されていたというのは、まさに驚異的です。通常は花と音楽について書いているブログですが、この絵はどうしても実物を見たいと思っていたので、実際に見に行った感想をブログに書いてみました。

淋派展1A.jpgこの作品は宗達の作品とばかり思っていましたが、宗達以外にも淋派の画家による模写が他に3つも存在するということを今回、初めて知りました。

今回の展示ではオリジナルを含めた4作品が全て見られるようになっています。

ここに掲載したチラシの作品は尾形光琳による模写で、宗達のオリジナルが国宝なのに対して、こちらの光琳の模写は重文指定になっています。

期間中、展示替えがあり、宗達のオリジナルは10月28日からの展示でしたが、幸いこの後に訪れたので、4作品を全て見ることができました。

下の図版は、チラシの裏に掲載されている雷神の4作品の比較で、左から順に宗達のオリジナルと、それぞれ尾形光琳、酒井抱一、鈴木其一による模写です。

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会場では4作品の実物が同じ展示室で比較して見られるように展示されています。そこに写し手の微妙な個性の違いは反映されるかもしれませんが、模写はあくまで模写であり、当然のことながら宗達のオリジナルが最も優れているのは一目瞭然です。

宗達のオリジナルでは、左の雷神が持つ太鼓が画面からはみ出して一部が切れてしまっています。このため画面に広がりと動きが出ていると評されています。宗達が意図的に切ったのかどうかはわかりませんが、無意識であるとすならば、極めて鋭い直観力が画面の空間構成に働いていると言えます。その結果左の雷神は左上に、右の風神は右下へと少しズレて見える、見た目に不均衡なアシンメトリーが生じているのも効果的です。

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光琳の模写では、おせっかいにも、切れないようにわざわざ下に下げられています。このため広大な空間性が失われてしまっているのと同時に、風神と雷神が左右対称に配置されたことでシンメトリー感が強調され、動きも失われてしまっているようです。

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それにしてもこの展示会はかなり混雑しており、ネットの混雑状況には比較的空いていると表示されている開館時を狙いましが、予想以上の人出でした。おまけに風神雷神の4作品が展示されているのは、会場に入って間もない第2室なので、さらに混み合っています。陳列ケースの前には黒山の人だかりが群がり、残念ながら屏風の画面全体を俯瞰して見られる状態ではありませんでした。

宗達の風神雷神のオリジナルは元来、京都の建仁寺の所蔵です。現在、実物は京都国立博物館に寄贈され、建仁寺で見られるのは高精度の複製だそうです。京都国立博物館の本物は常時公開されていないので、複製でもいいので、一度京都の建仁寺を訪れ、ゆっくりと鑑賞したいものです。

面白いことに、展示室も奥へと進むのにつれて人混みもバラけてきて、最後の方に展示されている酒井抱一の『夏秋草図屏風』は落ち着いて鑑賞することができたのが、幸いにも今回の収穫になりました。この作品は、現在では保存上セパレートされたようですが、当初は風神雷神図へのオマージュとして、光琳の風神雷神図屏風の裏に描かれていたということです。裏に描かれたので原図とは逆向きに、左側の秋草が風神に、右側の夏草が雷神に対応されているそうです。

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